【シリーズ エネルギーを考える】持続可能な社会実現への政策が重要 常葉大学・山本隆三教授

 
常葉大学経営学部教授・山本隆三さん

 電気代は給料にも影響する

 -東日本大震災以降、原子力発電の停止に伴う火力発電燃料費の負担増や再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金によって電気料金が高くなりました。しかし、日本人の多くは電気料金が上がっていることにあまり関心がないようです

 「どこの国でも同じですが、電気料金は使ったら支払うしかありません。家庭用の電気は値段交渉もできませんし、電気代に関心がないのは日本だけでなく、世界のどの国でも同じです。ドイツでは再エネ比率が3割を超え、FITの賦課金は標準家庭で月約3000円、年間では3万5000円程度になっていますが、マスコミが実施した賦課金額の認知を問うアンケートでは、ドイツ人のほとんどが『知らない』と答えています。しかし、電気料金の値上げはいろんなところに影響を及ぼしています。原油高のときは高騰する電気代のために経営が成り立たなくなった中小企業もあったように、経済には大きな影響を与えます」

 -国民生活にはどのような影響があるのでしょうか

 「一般の人は気づいていないようですが、実は私たちの給料にも電気料金が影響している部分があります。経産省の工業統計を見ると、製造業の電気料金負担額は15年で年間約4兆4000億円です。震災前は3兆2000億円程度でしたので、その4割近くの1兆2000億円も増加しました。同じ統計で製造業の人件費は27兆~28兆円ですから、電気料金増加分である1兆2000億円は人件費全体の約4%に相当します。震災後に電気料金が上がっていなければ、その分を賃金引き上げに回せた可能性があるのです。電気代が上がることは、働いている人の給料にも影響するということです」

 -日本の平均給与は今も20年前の水準を下回っています

 「平均給与のピークは1997年の年間467万円で、それ以降は若干戻す年はあっても徐々に下がっていました。それが安倍政権発足後の13年からは、97年以降の『失われた20年』といわれる期間で初めて4年連続で上がりました。非常に大きな経済効果がありますが、それでも16年で422万円とピークを1割程度下回っています。また、厚労省の国民生活基礎調査では『生活が大変苦しい』という世帯が13年に3割近くに達していたのに対し、16年には2割強に下がり、『生活にゆとりがある』とする世帯は増えています。いずれもアベノミクス効果ですが、その足を引っ張る可能性があるのが電気料金です。電気料金は14年後半からの原油価格下落によって、値上げ要因となる燃料費負担は、震災直後と比べると低くなっていても、現在でも電気料金は産業用で15%、家庭用で10%上がったままです。その理由は再エネ賦課金が増えているからで、今後は賦課金が経済の足を引っ張ることを懸念しています」

 さらに増える再エネ負担

 -政府はFITを見直し、賦課金の抑制に動いています

 「政府は17年4月に改正FIT法を施行しましたが、今後も賦課金負担が増えるのは間違いありません。18年度の買い取り費用は約3兆円で、そのうち約2兆3000億円が国民負担(賦課金)となる見込みです。これに対し政府は30年度の買い取り費用を4兆円、国民負担を3兆円と想定しています。30年度の再エネ比率で政府目標の22~24%を達成するには、大規模水力の開発余地がほとんどないため太陽光などFIT対象の再エネを2倍に増やす必要があります。17年度の日本の賦課金負担は標準家庭で月800円程度、年1万円程度ですが、今後はさらに負担が増えると思います。1番の問題は、電気は生活必需品ですから、賦課金の上昇は低所得者層への負担がより大きくなる、逆進性が高いことです」

 -再エネは純国産の低炭素電源であり、ドイツのように導入量をどんどん増やすべきと考える人も多くいます

 「そうではないですね。再エネ大国といわれるドイツは悩みを深めています。主要国で最も早くFITを導入した同国では、太陽光発電設備が急拡大したことによって増加した再エネ賦課金を抑制するため、適用対象を小規模太陽光に限定し、さらに入札制度導入などの見直しを実施しました。その結果、太陽光導入量は激減しましたが、20年の温暖化目標未達の問題に直面しました。目標達成には発電量の約4割を占める石炭火力を再エネで代替するしかありませんが、電気料金の上昇を招くため、ドイツ政府は今年初めに20年目標の放棄を決定しました。最近、メルケル首相はEU(欧州連合)の会合で加盟28カ国の環境大臣を前に、『1番優先されるのは雇用だ』と明言しています。実際、ドイツは国際競争力に影響のあるエネルギー多消費型産業の賦課金を免除していますが、今ではその対象企業は2000社を超え、全消費電力の4分の1が免除対象になっています」

 -ドイツに続いてFITを導入した欧州各国の現状はどうなのでしょうか

 「温暖化対策より経済を重視し始めたのはドイツだけではありません。スペインはFITによって高くなった電気料金の抑制を目的に、13年には再エネで発電した電気の買い取り価格の減額を、既得権を持っている事業者にもさかのぼって適用する制度に改め、再エネ設備の新規導入をほぼゼロにしました。イタリア政府は太陽光発電事業者に対する新税を導入し、太陽光設備を抑制しています。同国内ではその新税のことを『ロビンフッド税』、すなわち『正義の味方税』と呼んでいるそうです」

 -日本の未来を担う子供や孫の世代のために、エネルギーや電気のことで私たちが考えなければいけないことは

 「最近の原子力発電所の再稼働に関する世論調査では、20歳代では6割以上が再稼働に賛成しています。日本では『失われた20年』のために、初任給が上がっておらず、経済再生を願う若者の思いは切実です。年齢が上がるに従って再稼働反対が増える傾向にあり、高齢者や子供を持つお母さんの反対が多くなりますが、やはり今の日本では『失われた20年』から脱却するためにはどうしたらいいかを考えなくてはいけません」

 「エネルギー政策の目的は、持続可能な発展を実現することです。国連の定義によると、持続可能な発展とは『将来世代が自らのニーズを充足する能力を損なうことなく、現世代のニーズを満たすような発展』としています。すなわち、将来世代が少なくとも現世代と同程度の生活水準を維持できなくてはいけないということです。ところが、給料が下がり、家計の支出を切り詰めてきた今の日本は、そうなっていません。持続可能な発展を実現するためには、経済成長を支え、後押しする安価で安定的な電力が不可欠であるということを、皆がよく考えるべきではないでしょうか。適正なコスト競争力を持った再エネはもちろん導入を拡大していくべきですが、再エネは温暖化対策に貢献してもエネルギー政策の目的の一部しか満たしません。日本を持続可能な発展に導くには、最も付加価値額の高い製造業の国際競争力を高めていく必要があります。そのためには、温暖化問題とともに電力の供給と料金の安定化に寄与する原子力の利用が重要になります。同時に、世界的には増加する見通しである原発建設で、日本の原子力技術が果たすべき役割が大きいという現実にも、日本人はきちっと目を向けていくべきでしょう」(聞き手・神卓己)

【プロフィル】山本隆三

 やまもと・りゅうぞう 京都大学工学部卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経産省「産業構造審議会環境部会地球環境小委員会政策手法ワーキンググループ」委員などを歴任、現在は新エネルギー・産業技術総合開発機構技術委員、地球温暖化対策技術普及等推進事業審査委員会委員などを務める。著書に、『いま「原発」「復興」とどう向き合えばいいのか』(共著、PHP研究所)、『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社新書)など多数。1951年香川県生まれ。