【高論卓説】トヨタが取り組む「コネクティッド」 サービス進化させ、顧客接点維持の武器
トヨタ自動車は「The Connected Day」と冠した新型クラウン、新型カローラ・スポーツの発表会を6月26日に全国規模で実施した。2020年までに日米でほぼ全ての乗用車に車載通信機DCMを標準搭載する「コネクティッド戦略」を16年に発表済みであり、米国では17年のカムリ、国内はクラウン、カローラからこの戦略が発動した。
「The Connected Day」では、豊田章男社長、友山茂樹副社長の入魂のトークショーがあり、コネクティッドへの熱い取り組みと決意が語られた。「GAZOO(ガズー)」の歴史に多くの時間が割かれたのにはワケがある。
大昔の話だが、国内販売に配属された豊田氏は、製造ではトヨタ生産システム(TPS)に基づいて1分1秒を削るムダ取りをしているにもかかわらず、販売では車両が滞留していることを問題視。その改善を目指し1996年に業務改善支援室を豊田課長(当時)が立ち上げ、部下である友山係長(同)とともにTPSの経営思想を販売領域へ拡大した。
その時、ディーラーが下取りした中古車の流通を促進する、複数のディーラーで中古車画像を共有化するシステムを構築しようと考えた。しかし、予算がなかったという。室長だった豊田氏がポケットマネーでパソコンを購入、それをサーバーとしてクルマの写真を送った。それが「中古車画像システム」であり、後の「GAZOO」となる。トヨタのコネクティッドの始まりである。
2つの重要なポイントがある。第1に、ポケットマネーで黎明(れいめい)期のコネクティッド事業にコミットした豊田氏の姿勢と、現在のコネクティッド戦略で同社が多大な投資を要するコネクティッド・プラットフォーム構築に覚悟を定めてコミットしている姿勢が重なることだ。
第2に、コネクティッドの基盤が、TPSと顧客接点の維持に置かれていることだ。生産から保有というクルマのバリューチェーンの最も後工程に存在する顧客情報を、前工程に位置する販売・生産・開発へフィードバックしていこうとする。まさにTPSの経営思想そのものである。クルマのバリューチェーンビジネスを自前のコネクティッド・プラットフォームに残し、顧客との接点を守ろうとする。マーケットプレイスのような開放された取引市場へ顧客との接点を奪われたくない思いが伝わる。
自動車産業は、(1)デジタル化(2)人工知能(AI)化(3)電動化-の3つの技術革新を迎えた。この先には、自動運転技術があり、コネクティッドの世界が広がり、電動化されたシェアリングの行動様式が広がるモビリティーサービスが展開されていく。
クルマのコネクティッドはスマートフォンと連携すれば簡単に実現できる。しかし、車載センサーから集まるデータのゲートウエーは閉ざしており、走行データを基に作られるテレマティクス保険、メーデーシステム、修理提案のようなサービスは可能ではない。
しかし、AIをベースにした言語認識ではすさまじい技術革新が起こり始めている。コネクティッドサービスのゲームチェンジャーとなりうることだ。スマホ連携のコネクティッドサービスがストレスフリーの言語認識を持ったAIアシスタントとなってしまえば、トヨタと顧客との接点は奪われかねない。車両データのゲートウエーも情報通信会社によってこじ開けられる可能性もある。顧客接点、車両データを手放すことは自動車産業の終わりにもつながりかねない。そのような危機意識と戦う覚悟がトヨタコネクティッド戦略にはあるだろう。
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【プロフィル】中西孝樹
なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立。著書に「トヨタ対VW」など。
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