日銀の黒田総裁「緩和の持続性増す」 金融政策の枠組み強化

 
金融政策決定会合後、記者会見する黒田東彦・日銀総裁=31日午後、東京都中央区(宮川浩和撮影)

 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は31日の記者会見で、大規模な緩和の副作用を軽減する金融政策の修正について「より緩和の持続性が増す」と述べ、政策の枠組み強化であるとの考えを示した。国債市場などで累積する副作用に備えつつ、緩和を粘り強く続けることで、2%の物価目標を実現すると強調した。黒田氏の発言から日銀の政策修正の狙いや今後の課題を探る。(万福博之)

 「2%の物価目標達成はこれまでの想定より時間がかかる」

 日銀は31日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で物価見通しを下方修正した。企業業績や雇用環境が改善しているにもかかわらず、物価上昇は春先から鈍化。黒田氏がこれまで想定した平成31年度ごろどころか、32年度になっても物価目標を達成できるか不透明になったことも認めざるを得なかった。

 「現時点では追加緩和は必要ない」

 物価目標が遠のいたのなら本来、さらに市場に資金の量を増やす追加緩和も考えられる。だが、長期金利は既にゼロ%程度となっており現実的には追加緩和の余地は乏しい。今の経済環境が長く続けば、物価も徐々に上昇率を高めるとし、緩和の継続指針を示したが、他の選択肢が見当たらなかった面も否めない。

 「単に長く続けますというだけでは、金融政策に対する信認を確保できない」

 日銀が大規模緩和を始めて5年がたち、国内では超低金利が続く。金融機関は利ざや(貸出金利と預金金利の差)が縮小して経営体力が低下し、国債市場の取引も低調だ。物価予測を勘案すると、強力な緩和を今後も3年は続けることになる。政策の持続性を保つためにも、金融機関や国債市場への配慮が必要だった。

 「(先行きの)経済や物価の不確実性を踏まえて、当分の間、低い金利を約束したことが重要だ」

 今回、政策修正に踏み切ったのは今後の世界経済のリスク懸念も背景にある。米国発の貿易摩擦の影響などもあり、来年にも世界経済が後退局面に入るとの見方もある。国内では来年10月には消費税増税が予定される。景気が悪くなると日銀が政策を調整するのは難しくなるだけに、動けるタイミングは限られていた。だが、今の緩和を続けるだけで、本当に2%の物価目標を達成できるかには不透明感が残る。