【北海道発 輝く】西野製作所 寒冷地仕様のEV開発、地域の足確保を
寒冷地で積雪が多い北海道で、冬でも間単に走行できる寒冷地仕様の1人乗りコンパクト電気自動車(EV)「ネイクル・タイプ2」の試験的な販売が6月に始まった。今月には2号車が納車される。中小企業基盤整備機構(中小機構)北海道本部を中心に、道内のものづくり中小企業10社が集まってコンソーシアムを組み、製作された小型EVだ。主要部品の加工を担当したのが西野製作所だ。西野義人社長は、「自社の加工技術によってEVの製造がどこまでできるか挑戦した。1号車は夢を形に、2号車はビジネスにつなげ、3号機は実用性を目指している」と話す。
冬期間でも安全走行
同社は、室蘭市で金属部品の機械加工から表面改質加工まで手作業で、溶接、切削から研磨、メッキ(表面処理)など仕上げ加工まで一貫して行っている。傷んだ部品をリユース(再利用)して機械を長持ちさせ、コスト低減や廃棄物削減につなげるなど、ユーザーに環境面で優しい提案をしている。
道内中小企業10社の英知を集結した寒冷地仕様のEV開発プロジェクトのきっかけは、2014年に札幌ドーム(札幌市豊平区)で開かれた北海道モーターショーにさかのぼる。トヨタ自動車出身の高田坦央・中小機構理事長が、トヨタ自動車北海道(苫小牧市)の田中義克社長(当時)に「北海道に適したEVができないか」と相談したのが始まりだ。
北海道に限らず地方ではガソリンスタンドが減少し、商業施設も空白地域が増えている。「超高齢社会に対応でき、冬期間も走行できる安全なEV開発に着目した」(中小機構北海道経営支援部の松尾一久部長)と安全性の高いコンパクトEVの製品化を目指した。
実用性を追求
当初は車を一から作り上げる「グランドアップ」を計画したが経済的、技術的、時間的に考えると難しかった。このためトヨタ車体製の小型EV「コムス」の内外装や走行性能を特別仕様に変更する「コンバージョン」を採用。こうして「ネイクル・タイプ1」が16年に完成した。
車輪とモーターを一体化したインホイールモーターや車底部分の着雪を防ぐ超撥水(はっすい)性溶射処理、座席やハンドルを温める電気ヒーター用のレンジイクステンダー(小型発動機)の搭載など「寒冷地仕様に力を入れすぎて販売価格が設定できないほど高額になった」(松尾部長)と苦笑する。
このため「同タイプ2」は、最高速度時速50キロ、充電時間6時間、フル充電時の走行距離約50キロなど基本仕様は同じだが、販売価格150万円を超えないように抑えた。「駆動系ギアでトルクを20%アップし、雪の抵抗を減らすために車高を10センチ上げた」(西野社長)など工夫を凝らした。
さらに今年1月には光岡自動車製の小型EV「ライク-T3」をベースにした「同タイプ3」を開発し、試験走行を重ねている。実用性を重視し、2人乗りで、100キロ程度の荷物を載せることが可能。回生ブレーキを使い電力を回収するなどの工夫で、航続距離を60キロまで延ばした。
「車検、オイル交換、給油は全く必要とせず、家庭用コンセントで充電でき、維持管理、利便性に優れたEVを目指している」(松尾部長)。まだ普及には時間がかかるが、西野社長らのコンソーシアムは地域限定仕様で生産されるEVが、地域に必要な足として定着するために地道な歩みを続ける。(川端信廣)
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【会社概要】西野製作所
▽本社=北海道室蘭市中島本町1丁目11-16 ((電)0143・44・5945)
▽創業=1971年6月
▽設立=80年12月
▽資本金=1000万円
▽従業員=38人
▽売上高=5億2000万円(2017年8月期)
▽事業内容=一般機械部品製作・修理、溶射加工、硬質クロムメッキ、特殊溶接など表面処理
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□西野義人社長
■異業種交流深め道内経済活性化へ
--機械加工専門の会社として歩んできた
「機械部品の製作会社で、父と母が2人で1971年に創業した。一般産業機械の製作、修理などを手掛け、CNC複合旋盤、五面加工機、門型マシニングセンター、横中ぐり盤といった大型加工機を導入して技術力を向上させてきた。硬質クロムメッキや溶射加工、特殊溶接なども扱うようになり、部品加工から最終仕上げまで一貫して行っている」
--積極的に機械のリユースを提案している
「機械部品の新品への交換は手間やコストがかかり、稼働率がダウンするため利益面や、廃棄物処理などの負担が大きい。修理や再生加工によってリユースし、低コストや短納期、品質向上といったメリットがあることを提案している。これまでは国内では機械やプラント装置は部品を修理して使い続けることが多かったが、ユニット交換や廃棄してしまうようになっている。とてももったいない」
--全道での技術連携は
「“ものづくり北海道”の生産拠点として室蘭、苫小牧地域を中心に異業種交流を深めている。特徴のある技術を維持しても1、2社では知れている。多くの企業が集まって技術を集積して製品化することが必要だ。冬道を走行するEVは、その事例の一つだ。今後も北海道経済の活性化に貢献したい」
--室蘭で産業創出を目指している
「世界的に航空機関連産業の精密加工技術は大手メーカーが維持してきたが、近年は困難になり中小企業に移っていると聞く。国内でも機械金属加工技術が集積されてきた室蘭市が注目されている。この集積を生かすため、室蘭工業大学を中心に地元企業が加工技術で連携し、複雑な曲面形状の機械加工や精密加工などの技術を確立して、航空機関連事業の可能性を追求していきたい」
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【プロフィル】西野義人
にしの・よしひと 北海道自動車短大(現北海道科学大短期大学部)卒。1992年西野製作所入社。2008年創業者の父、忠之氏を継ぎ、現職。47歳。北海道出身。
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≪イチ押し!≫
■機械部品リユースで技術フル活用
西野製作所は、機械部品加工から表面改質処理加工まで一貫した生産技術を生かし、機械部品のリユース事業を展開している。五面加工機などの最新設備や、硬質クロムメッキ、溶射、特殊溶接などの表面処理や表面改質技術による一般産業機械の製作・修理で培った技術をフル活用する。
これまで、アルミダイカストで溶けた金属を加圧するプランジャースリーブの内面修理や、漁船で使われる網を巻き上げるリールの回転軸、汚泥処理施設の攪拌バネといった部品の補修や再生加工などの多くの実績を重ねてきた。
高い品質管理の下、短納期のリユースによって、顧客企業が所有する各種機械機器・装置類の高機能化、低コスト運用を実現するほか、ライフサイクルアセスメント(LCA)導入にも役立っている。
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