【論風】再エネのコスト削減 “事後的修正”の荒療治を

 
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 □社会保障経済研究所代表・石川和男

 太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、日本では、2012年7月のFIT(固定価格買取制度)施行を契機として、太陽光を中心に急速な開発・導入が進んできた。今年7月3日に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、再エネの推進が一層鮮明に打ち出された。メディアが再エネについて“主力電源化”と書き立てていることもあって、あたかも再エネが今すぐ“主力電源”になるかのような印象が植え付けられているかもしれない。

 遠い“主力電源”化

 しかし実際は、そう甘くはない。経済産業省が公表した資料の記述ぶりは再エネに関して、(1)30年に向けて「低コスト化、系統制約の克服、火力調整力の確保」を「主力電源化への布石」として掲げるとともに、(2)50年に向けて「経済的に自立し脱炭素化した主力電源化を目指す」-というもの。

 それより前の5月17日公表の自民党・再生可能エネルギー普及拡大委員会(片山さつき委員長)の提言でも、30年以降も見据え、再エネを『主力電源』と位置づけることにより、現在の目標(30年での電源構成22~24%)にとどまることなく、再エネのさらなる導入を目指すことが明記された。

 ただ、その提言でも、「自然変動電源である太陽光・風力の導入が拡大すれば、調整力の確保が重要な課題となる」、「現在は主に火力で対応しているため、今後、カーボンフリーな調整力としての蓄電池や水素が円滑に普及していくよう、必要な環境整備を行っていくべきである」と、真っ当な現実論がしっかり併記されている。

 そこではさらに、再エネの主力電源化に際しては、国民が負担する再エネ関連コストをどう引き下げていくかが最も困難な課題だとした上で、(1)参入条件(FIT認定や環境アセスメントなど諸手続きに要する費用・時間)(2)工事費等(多重下請け構造に起因する工事費の高さや、土地代の高さ等)(3)系統制約(再エネ向け送電網の整備に要する費用・時間)(4)出力調整(自然変動電源である太陽光・風力への火力・水力による補完)(5)価格規制(FITに基づく買い取り価格と賦課金)-の5つを、その主因として挙げた。

 今後、再エネを低コストで大量導入していくに当たっては、上記の5つを是正する努力が必要となる。17年度に大規模太陽光に対して先行導入された入札制は、発電コスト低減を促す効果が期待される。今後、大規模バイオマスや洋上風力へと対象を拡大される。

 20年以上も継続

 だが、これらは全て今後のFIT認定案件の話である。問題は、過去のFIT認定案件の買い取り価格が世界的にも非常に高く、何もしなければ、これが今後20年以上も制度的に維持されていくという点。

 FITによる再エネ買い取り総額・賦課金総額は18年度で3.1兆円・2.4兆円に達する見込み。その大宗は過去の高価格認定案件(12~14年度認定の太陽光40~32円キロワット時など)。17年4月に施行された改正FIT法により、約16ギガワット(約27万件)が接続契約を締結できず失効したが、なお未稼働の高価格認定案件は多数存在する。

 FITの根拠法である再エネ特措法の第3条第10項には「経済産業大臣は、物価その他の経済事情に著しい変動が生じ、又は生ずるおそれがある場合において、特に必要があると認めるときは、調達価格等を改定することができる」とある。つまり、一定の制約はあるものの、再エネ買取価格や期間を「事後的に」修正できるのだ。もっともこれは、政治の強い決意と決断がなければ実現しない。

 この条項を活用して、再エネ買取に係る国民負担を大幅削減するため、12~14年度認定のメガソーラーなど高値買取物件の買取価格・買取期間を変更すべきだ。

 このくらいの荒療治をしなければ再エネ関連コストに係る国民負担を抑制・削減することはできない。

【プロフィル】石川和男

 いしかわ・かずお 東大工卒、1989年通商産業省(現経済産業省)入省。各般の経済政策、エネルギー政策、産業政策、消費者政策に携わり、2007年退官。11年9月から現職。他に日本介護ベンチャー協会顧問など。50歳。福岡県出身。