【高論卓説】働き方改革で生産性向上の鍵 業務をパーツ分解し成果数値化
働き方改革関連法の適用開始まであと半年。企業は規定や制度の整備を加速させている。肝心なことは、社員一人一人の労働時間を短縮し、生産性を高めるのを実現することだ。規定や制度を変えただけでは、人は動かない。「生産性を高めよう」という声を掛けても効果がみられないことが普通で、逆に掛ければ掛けるほど抵抗感を持つ人もいる。
現在、生産性向上の観点で、最も実効性があると思える方法は、仕事に費やした時間ではなく、仕事の成果で評価し給与や賞与に反映させる方法だ。成果を評価しようとするときに、必ずと言ってよいほど直面する問題が、成果をどのように測定するかということだ。例えば、営業担当者は売り上げで、財務担当者は利益という数字で測定しやすいが、では管理部門の社員はどうするかという問題だ。
しかし、これも「着手した、していない」「実施継続している、していない」「完了した、していない」というように、分解したパーツ業務を「したか、していないか」で判定していければ、1業務で3点(3つの観点について、いずれも「した」)から0点(いずれも「していない」)の範囲で数値化できる。
仕事の成果で評価することに成功している会社は、完璧な方法ではなく、誤差があったとしてもデータを蓄積し始めているところだ。データを蓄積すればするほど、データの信頼度が上がるからだ。
1人が1業務について、先述の3つの観点を判定しただけでは、たまたま完了した、たまたま不測の事態に直面して完了していないという状況に影響を受けることがある。1業務の判定だけでは、精度が低いということは事実だ。だからといって、より精度の高い手法が確立されるまで、何もしなかったから、仕事の成果での評価は始まらない。
一方、業務の判定精度は低かったとしても、例えば、1人で1カ月間に30業務を行い、3つの観点で評価していくと、社員の傾向が顕著に出ることに気付く。着手していない業務が多い人、継続している業務が多い人、早期着手はするが完了しにくい人など、日常接している中で漠然と感じていたその人の仕事の仕方が、数値で表される。
分解したパーツ業務を判定するといっても、大きさと難易度にも差があることが普通だ。業務の大きさと難易度をきめ細かく判定しようとすればするほど、仕組みは複雑になり、評価に手間取ることになるので、お薦めは業務の大きさや難易度について、大中小の3区分のランク付けをする方法だ。
このように申し上げると、「業務の大きさや難易度の実態を精緻(せいち)に反映しているとは思えないので、使えない」という声に接することがあるが、逆に精緻にすればするほど、評価自体に時間と労力がかかり、使えなくなって、形骸化してしまう。
業務の大きさと難易度で見極めていくと、例えば難易度の高い業務を担っていて完結する割合が低い人や、大きい業務になると着手率が格段に下がる人など、人それぞれの仕事への取り組みの傾向が見えてくる。評価することが、育成のポイントを見極めることと表裏一体であることを実感できるに違いない。
業務をパーツ分解し、精度が低かろうとも業務を「した、していない」で評価する。評価回数を増やし、データを蓄積し、精度を高めていくことが生産性向上の鍵である。
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【プロフィル】山口博
やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年にモチベーションファクター設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社)。56歳。長野県出身。
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