【木下隆之のクルマ三昧】これって社外秘じゃないの?! 難解でも面白い「スバル技報」
スバルが発行する超お堅い雑誌を定期的にいただいている。総ページ数が約300にも及ぶからズッシリと重い。
表紙には「スバル技報」とある。「2018 No.45」とある。No.1は1972年。およそ年一回を基本に不定期で発行しているとのこと。もう46年も発行を続けているのである。サブタイトルは「スバル・テクニカル・レビュー」。和訳すれば「富士重工技術評論」である。
◆まるで理系学生の参考書?
ペラペラと捲るのに気合が必要だ。その理由は、巻末の奥付からも感じられる。発行兼編集人はスバル技報編集委員会であり、その技報編集委員会の構成表には、技術開発本部やCAE部や、あるいは電子商品設計部といった技術系に所属する方々の名が記されているのである。
勇気を振り絞ってページをめくると、さすがに頭がクラっとする。難解な数式や図形が紹介されており、理工系の参考書のような体裁なのである。「Dadd=Dramps+Dduct+Dplug+{Peu2/e+(Pe-Po)}Ae-PoU2/0Ao」なんて呪文のような式が並ぶのだからもうお手上げだ。
もともと文系であり体育会出身であり、あげくのはてにレーシングドライバー兼物書きなどを生業にしている僕が、ページが進むはずがない。
ただし、実はそんな難解な技術解説書でも、諦めずにページを読み進めていくと、なかなか面白い紹介記事に突き当たる。
◆ゴルフバッグの正しい納入の角度まで
これが面白いと思うかつまらないと感じるかは大きく分かれるところだが、たとえば車内の空調に関する記述。足元の温度を均一にするための大型フットダクトが何本ありそれがどんな角度で取り付けられているかなんてことも詳細に説明している。トランクにゴルフバックを積み込むには、どんな角度で重ねればぴったりと納まるかだなんて細かいことまで記しているのである。
リアドアガラスの板厚を4.0mm、リアクォーターガラスを4.0mm、リアゲートガラスを3.5mmとすることで、後席の遮音性を向上させたとある。それには、風切り音低減効果を表すグラフが添えられている。縦軸には音圧を表し、横軸には周波数(1/3オクターブHz)である。
それによると4Hzから100Hzで大きな違いがある、というようなことが紹介されているのだ。
いやはや「だからなんだよ」なのだが、おそらく開発する技術者にとっては手を叩きたくなるようなデータに違いない。
室内温度センサーの取り付け位置は実は、ステアリングを握るドライバーの左膝の先に忍び込ませている、なんとこともわかって、「だからどうした」がいつしか妙に興味深くなってくるから不思議なのである。
◆航空機の空力まで登場…さすがスバル
読み進めていくと難解度はさらに高まっていく。ここまでいくと僕の知能指数では理解不能なのだが「航空機超音速イーテークスピレージ抵抗評価技術」だったり、「SKC減圧環境エバボ試験室の活用」といった領域にまで踏み込むのだ。
まあ、イラストから想像すると、コンコルドのような先の尖った航空機の空気抵抗はどんな角度につっ立てればいいか…なんとことのようである。航空機に関する開発が進んでいることから、あらためてスバルは航空機メーカーでもあることを再確認するのだ。
そう、このスバル技報から読み取れるのは、学生時代にちゃんと勉強した頭のいい人たちが重箱の隅をつつくような開発を日夜続けることで車が少しずつ良くなっているのね、ということである。クルマは一日で進化しないのだってことがわかるのだ。
夏のバカンスで疲れた夜に、なんの気なしに「スパル技報」を読みふけっていると、時間の流れがゆったりと感じられるから不思議だ。中学一年で理工系への道を諦めた僕でもわかりやすい解説にホッとする。
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【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は隔週金曜日。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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