【神奈川発 輝く】三和織物 「撚糸の里」伝統産業つなぐネクタイ

 
機械式織機から美しい色柄のネクタイ生地が生産されていく=神奈川県愛川町の三和織物本社工場

 「カタカタカタ」-。高速で上下する織機の音が工場内に響き、美しい織り目の生地が紡ぎ出される。神奈川県愛川町の三和織物は、創業約80年の歴史を持ち、かつては繊維産業で栄えた同地域に唯一残る織物製造業者だ。ネクタイ生地の製造・販売を業務とし、本社工場では年間にネクタイ約16万本分を生産。主に東京都内の問屋数社に卸している。今後は自社製品の販売規模拡大や新商品開発に力を注ぐ方針だ。

 フレスコ織が強み

 ネクタイ生地は織り方によってさまざまな風合いの生地が出来上がる。なかでも同社の主力商品の一つがフレスコ織(からみ織)という特殊な技法で作られる生地だ。3本の糸をより合わせた太い糸を網目状に織った生地で、通気性と摩擦への耐久性に優れる。夏物ネクタイに最適で、編み目状の“透け感”が、涼しく爽やかな印象を与える。

 フレスコ織には高度な技術が必要とされ、製品化できる企業は世界的にも珍しいという。同社は長年にわたり、織機の改造を重ねてフレスコ織を実現。有名アパレルブランドのネクタイにも使用されるなど、高い需要がある。

 愛川町は町内の半原地区を中心に江戸時代から撚糸(ねんし)業や織物業などの繊維産業で栄えた。町を流れる中津川が気温や湿度など、生糸の製造に適した環境を生んだといい、明治期には川沿いに撚糸機を動かすための水車が林立したという。そんな土地柄のなかで長らく営業していた3地区の有志が相談し、約80年前に誕生したのが同社だ。

 この一帯は「撚糸の里」として名をはせたが、昭和期中盤以降、中国などからの輸入品が出回るようになると衰退する。後継者不足も相まって、倒産や廃業が相次ぎ、バブル崩壊を経て、町内で存続する織物製造業者は同社を残すのみとなった。

 業界の衰退という逆風のなかでも、同社が安定経営を実現してきた背景には、経営効率化と商品開発へのたゆまぬ努力がありそうだ。

 その一つが国内外の生産のすみ分けだ。ベトナム・ホーチミン市の工場では最新式の高速織機を導入し、量産による低価格帯の商品を生産。一方、国内では、旧型織機を使い、高価格帯の商品を生産している。

 旧型織機をあえて使うのは、高度なプログラムが組み込まれた最新式織機はカスタマイズ性が低いという理由がある。旧型織機は、自分たちの手で改造しやすく、生地作りに、これまで培ってきた職人の技術を反映させやすいのだという。

 自社製品でも飛躍

 また、ニーズに合わせて高価格帯商品を多品種小ロットで作るためには、最新式織機では人件費が割高となることも試算によって判明した。そのため、当初国内向けに導入した最新式織機を迷わず国外用に転換したという。思い切った経営判断と試行錯誤を重ねたことで苦境を乗り越え、いまは、飛躍への土台が築かれようとしている。

 生地の生産だけでなく、自社製ネクタイの生産拡大にも力を入れ始めた。15年ほど前に県織物工業組合(2013年解散)から引き継いだネクタイブランド「RaVine(ラビン)」の商標を、近年はインターネットなどを使って積極的に売り込んでいる。

 販売は、2015年に本社工場に併設する形でオープンしたショップとインターネット上でしか行っていないが、今後は域外の衣料品店舗などへの出荷も視野に入れているという。

 同社の花上仁志社長は「販売規模拡大や量産にはまだ体制が完全ではない。知名度を上げながら、少しずつ事業を拡大したい」と意気込んでいる。(外崎晃彦)

【会社概要】三和織物

 ▽本社=神奈川県愛川町田代101 ((電)046・281・0513)

 ▽創業=1936年6月

 ▽設立=54年4月

 ▽資本金=1000万円

 ▽従業員=7人(2018年1月)

 ▽売上高=1億3000万円(18年6月期)

 ▽事業内容=ネクタイ生地、自社ブランドネクタイ「RaVine(ラビン)」の製造・販売など

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 □花上仁志社長

 未知の色や感触 新しい生地で感動

 --事業の展望は

 「ネクタイは世界的に需要が減少傾向にある。中国でも廃業が続き、大手企業しか残らない状況だと聞く。日本もこれだけ暑いと、夏はやはり売れない」

 --そんななか、今後はどう事業展開するのか

 「涼しさを演出できるフレスコ織の認知度を高めていきたい。これまでネクタイ生地の生産を事業の中心に据えてきたが、今後は幅広い商品作りをしていかなければならないと考えている。例えば、衣類やストール、マフラーなどの生地。専用の織機を2台導入する予定で、製品化へ基盤を固めているところだ」

 --生産拡大の狙いは

 「見たこともない色や感触など、新しい生地の開発を通して、消費者に感動を与え続けていく企業でありたいと考えてきた。アパレル関連の商品はいくら品質が良くても、デザインや配色が悪いと手に取ってもらえない。感性を磨くこと、そして織物の技術力を向上させるため研鑽(けんさん)を積みたい」

 --織物業が衰退するなかで、生き残ることができたのはなぜか

 「(神奈川県の)愛川町はのどかな田舎町だが、最終バスの時間が早いなど、交通の便がいいとはいえず、都市部に比べて生活も便利とはいえない。企業には人手不足の問題がつきまとう。ただ、そんな環境が、少ない人数でいかに効率良く経営できるかを考えるきっかけとなり、織機を改造するなどの工夫も生まれた。結果的に最適な経営体制の構築につながったのかもしれない」

 --地元への貢献をどう考える

 「社員たちを教育し、愛川町伝統の産業として再興を図りたい。社内的にも技術を継承していかなければならない。若い社員がチャレンジできる土壌を作り、会社を盛り上げていく。地元の発展にも尽くしたい」

【プロフィル】花上仁志

 はなうえ・ひとし 東海大政治経済卒。繊維商社、タキヒヨーでの下積みを経て、1990年4月、祖父の花上薫氏が創業した三和織物に入社。2代目の公男氏(現・会長)から経営を引き継ぎ、2005年から現職。趣味はトレイルランニング。休日に地元周辺の丹沢山などを巡る。50歳。神奈川県出身。

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 ≪イチ押し!≫

 多彩な「ラビン」 オシャレ演出

 自社製ネクタイは、1本5000~6000円で販売。なかでも「RaVine(ラビン)」ブランドは年間に10~20柄を生産し、高度な織物技術で生み出された多彩な色柄がオシャレを演出する人気の商品群だ。

 ラビンは神奈川県の「かながわの名産100選」(2006年度)に選ばれたほか、同県愛川町の特産品として推薦する「愛川ブランド」(15~20年)にも認定。愛川町の織物業の伝統を後世につなぐ製品として、地元の期待を背負う。

 店頭販売は、同社本社に併設されたショップ「HATAYA 渓谷の布工房」のみは同店に並ぶネクタイ。営業日は木、金、土曜日の週3日(営業時間は午前10時から午後5時まで)。

 問い合わせは、同ショップ((電)046・210・0001)。インターネットによる通信販売は同社ホームページ(http://sanwa1936.jp/)から。