空飛ぶ車、開発競争が激化 「低コスト移動革命」急展開
SF映画さながらに空中を自由に移動する「空飛ぶ車」をめぐり、2020年代の成長産業と見込む各国の開発競争が熱を帯びてきた。欧米の大手企業やベンチャーに続き、日本でも官民協議会がこのほど始動。安全面など克服すべき課題は多いが、速くて安い夢の乗り物として災害救助やタクシー代わりの活用を想定、未来の暮らしを一変させる可能性がある。
人命救助・過疎地の足
電動のプロペラを使い、垂直に離着陸して自動運転で飛行する-。空飛ぶ車に明確な定義はまだないが、海や川といった障害を飛び越えて移動する乗り物の全体を指す。実用化されれば陸、海、空の垣根がなくなって「移動革命」が起きると予測する専門家もいる。
発着場や通信設備は必要だが、道路や橋といった既存のインフラに頼らないため巨額の投資は不要。エンジンで飛ぶヘリコプターに比べて簡素な構造のため機体価格は安く済む。パイロットが乗らず人工知能(AI)で自動運転するメリットを生かせば「運航コストを現在のタクシー並みに抑えられる」(経済産業省)との算段も働く。
需要が見込まれるのは災害時の人命救助や物資支援だ。一刻を争う場面で、たとえ道路が寸断されていても迅速に人やモノを運ぶ有効な手段となる。
渋滞が深刻な都市部での活用に加え、過疎地や離島では住民の通勤や通院、買い物時の手軽な足代わりとなる。移動が不便な観光地に旅行客を呼び込むための起爆剤としても期待される。
自動車や飛行機といった移動手段の技術革新は、その時代時代で経済発展の礎となってきた。近年は無人小型機「ドローン」や自動走行技術の進展が著しい。その応用として、空飛ぶ車の開発競争が世界の大手やベンチャー企業を巻き込んで激しさを増している。
米配車大手ウーバー・テクノロジーズは「エアタクシー(空のタクシー)」の実用化を計画する。23年にサービスを開始し、25年に世界5都市に拡大。30~35年をめどに12都市以上に広げ、1都市当たり千機以上が1日に数十万人を運ぶ未来図を描く。
欧州航空機大手エアバスは23年に4人乗り機体の実用化を計画する。有人ドローンを開発する中国企業イーハンは試験飛行を終え、18年中の実用化を目指している。
日本でも、愛知県豊田市を主な拠点とする若手技術者の団体「カーティベーター」や名古屋市のベンチャー企業「プロドローン」などが独自に開発を進めているが、世界と伍(ご)して勝負するには国の支援が望まれる。
欠かせぬ国の支援
課題は技術面にとどまらない。機体の耐久性や運航管理といった安全確保のルール整備のほか、乗り物が低空を飛び交う社会に理解を求める周知活動も不可欠となる。
「日本として相当大きな戦いになる」。8月29日の官民協議会に出席したベンチャー企業幹部の発言には「オールジャパン」での対応が必要との覚悟がにじんだ。
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