関税基準改定で生産戦略の見直し必至 NAFTA再交渉、日本の自動車メーカー困惑

 
マツダのメキシコ工場。米国への主力供給拠点となっている=サラマンカ市(マツダ提供)

 NAFTA再交渉をめぐり米国とカナダの2国間協議が合意を持ち越す中、域内に生産拠点を持つ日本の自動車メーカーの間に困惑が広がっている。米国とメキシコは自動車貿易の関税をゼロにする基準の厳格化で先行合意しており、協定の枠組みが大きく変わる可能性が出ているためだ。米市場への輸出に協定を活用してきた各社は生産戦略の見直しを迫られかねない。

 見直しの最大の焦点は、車の関税基準の改定。現在は部品の62.5%以上を域内で調達すれば無関税だが、米・メキシコは基準を75%に上げることで合意した。ホンダはメキシコにスポーツ用多目的車(SUV)「HR-V」(日本名ヴェゼル)などを手掛ける2工場を持つ。2017年は21万台生産し、6割を米国に輸出。域内での部品調達率はHR-Vで67%となっており、調達比率の基準が75%になると条件を満たせない。

 しかし域内から部品調達を増やす対応は、一筋縄ではいかない。各社は開発段階から品質やコストなどを検討し調達先を決めている上、域内調達が難しい部品も少なくないからだ。ホンダは「調達先変更で域内の高い部品を買わねばならなくなるとコストが増える」と懸念する。

 メキシコとカナダで17年に計68万台生産したトヨタ自動車も再交渉を注視する。メキシコでは17年、北部バハカリフォルニア州の工場でピックアップトラック「タコマ」を約10万台生産し、大半を米国に輸出。中部グアナフアト州にも来年中の稼働に向け新工場を建設中だ。

 米国が輸入トラックにかける関税は25%で乗用車の2.5%を上回る。協定の恩恵がなくなるとコスト増は避けられず、「原価低減や生産車種変更などあらゆる手段で競争力を高める判断を迫られる」(メーカー幹部)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の試算によると、タコマの米国輸入(17年実績)に関税25%が課せられた場合の負担額は年約500億円という。

 各社は米・メキシコ合意で設けられた「賃金基準」にも困惑気味だ。基準は車の部品の40~45%は時給16ドル(約1800円)以上の工場で造るよう要求。適用されると、時給7ドル程度が相場とされるメキシコ製の部品を調達しにくくなる。

 同証券の杉本浩一シニアアナリストは「中長期的には米国向け次期モデル投入時にメキシコ生産を見合わせるか先送りする対応が求められる」と予測。米国などへの生産切り替えも選択肢に入る可能性も指摘している。(臼井慎太郎)