町おこし奏功、熱海“廃虚”からの復活 「観光客の前に地元の人に魅力」が成功の秘訣
日本三大温泉の一つに数えられる「熱海」(静岡県)がにぎわいを取り戻している。高度成長期に「東京の奥座敷」として多くの新婚旅行や社員旅行の客が訪れたが、バブル経済崩壊や団体旅行の減少で、2006年には熱海市が財政危機を宣言するまでに衰退した。しかしその後の地域挙げての町おこしで、昨年ごろから“熱海復活”と注目されている。
活気戻った商店街
夏休みの行楽客が行き交うJR熱海駅前からアーケード街を抜けて15分ほど歩くと、メインストリートの熱海銀座商店街にたどり着く。入り口近くには創業100年の和菓子店の風格ある宮造りの店舗。通りには地元住民向けの雑貨店のほか、ジェラート(氷菓)店、カフェといった観光客向け店舗など30店が並ぶ。
通りの中ほどの「ゲストハウスMARUYA(マルヤ)」のカフェ&バーは若者でにぎわう「新名所」だ。歩道に面したスペースでは観光客が地酒や地ビールを味わい、店頭のグリルでは周辺の店で買った干物を焼く香りが立ち込める。
マルヤを運営するのは、熱海の中心市街地再生事業を手掛けるmachimori(マチモリ)の市来広一郎社長。「若い人を呼び込むことで商店街を活気づけ、『熱海のファン』をつくる」狙いだ。
毎週土曜日には宿泊客向けに周辺を散策するツアーを開催。高度成長期の面影を残した古き良き時代の雰囲気が残る街並みは若者には新鮮に映るようだ。三島由紀夫や谷崎潤一郎といった文化人も通った老舗純喫茶「ボンネット」が会員制交流サイト(SNS)で紹介され、人気店になるといった現象も起きている。
地元の魅力再認識
熱海が最も活気づいたときの宿泊利用者は450万人を超えていたが、11年には半数近くまで落ち込んだ。「熱海銀座商店街の3分の1が空き店舗になった」(熱海市観光経済課)といい、市来氏は「数年で街が廃虚のようになった」と振り返る。
市来氏は東京の大学を卒業後、コンサルティング会社に就職したが、熱海の地域おこしを担おうと07年にUターン。住民への調査で「熱海は何もない」と自信をなくして諦めている人が多いことに驚いた。
「観光客を呼び込む前に地元の人に熱海の魅力を再認識してもらいたい」と、熱海市などと協力して農業などの体験交流ツアーや定期的な青空市を開催。青空市には徐々に人が集まるようになり、出店者から商店街の空き店舗で本格的に店を開く人が現れる。今では熱海銀座30店舗のうち空き店舗は2店のみになった。
周囲も変わり始めた。熱海銀座の干物店が地元産の品ぞろえを徹底して魅力を高め、駅前の仲見世商店街では干物店がカフェに業態転換。住民の意識も変わり、熱海市などの調査では8割超が「以前と比べてよくなった」と答えた。
よい方向に向かう熱海だが、課題も残る。なかでも高齢化率は全国平均の27%に対して熱海市は45%超。これが空き家と空き店舗の多さにもつながっている。
地域の課題解消のため市来氏は「空き物件を活用して宿泊施設を運営したい」と話す。ファミリー向け、中高年向けといった多様な形態で利用者を増やす狙いで、地域の資源を生かし新たな業態を生み出して地域を活性化させる考えだ。(佐竹一秀)
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