【高論卓説】大塚家具と星野リゾート、二代目の器 現場の声に耳を傾ける姿勢で明暗

 
大塚家具の大塚久美子社長

 父娘対決から4年。大塚家具が今、大きな岐路に立たされている。8月14日に発表された大塚家具の2018年6月中間決算では、売り上げは前年同期比11.9%減の188億円、営業損益は35億円の赤字となった。

 通期でも51億円の営業赤字予測となっており、16年12月期の45億円、17年12月期の51億円の赤字と3年続けて営業赤字になる見通し。そのため監査法人からは「ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)」に関する注記が付された。

 「ゴーイングコンサーン」は03年3月期から上場企業に開示が義務付けられた制度で、監査人から「イエローカード」を突き付けられたということだ。こうした事態に陥った最大の原因は、大塚久美子社長の経営手腕のなさだったといってもいいだろう。

 久美子氏は創業40周年に当たる09年に社長に就任した。当時大塚家具はリーマン・ショックなどのあおりを受けて売り上げが90億円近く減少し営業赤字に転落、これをコスト削減などの財務戦略で切り抜けた。だが、長期化するデフレやライフスタイルの大きな変化の中で、ビジネスモデルの抜本的な見直しが求められていた。

 久美子社長は脱同族経営を掲げる一方で、これまで進めてきた高級路線から大幅に方向転換。会員制を廃止し、丁寧な接客重視のスタイルから入りやすい店舗づくりに力を入れ、これをトップダウンで強引に推し進めた。

 これに反発したのが父であり創業者、大塚勝久氏の下で仕事をしてきた古参の幹部たちだ。結果的には創業者を担ぎ出し、父娘対立へと発展した。この戦いに勝った久美子社長は上から強引に働き方を変えようとしてそれが現場の混乱を招き、15年末から17年末までの間に250人以上の社員が退社。戦力低下が業績悪化に拍車をかけてしまった。

 実は久美子社長と同じような失敗をした経営者がいる。星野リゾートの星野佳路社長だ。

 長野・軽井沢の老舗旅館「星野温泉旅館(星野リゾートの前身)」の長男として生まれた星野氏は、米コーネル大学大学院でホテル経営を学んだ後に31歳で父親の跡を継いで社長に就任。一流ホテルを目指して米国流のホテル経営を持ち込もうとするが、ベテラン社員の反発を招き、100人の社員のうちの3分の1が辞めてしまい、経営再建は難航した。

 さらに一族による「公私混同」を解消するための経営改革では父親と対立し会社を飛び出したこともあった。ここまではまさに久美子社長と同じような道をたどっている。しかしここからが大きく違う。

 苦境に立たされた星野社長は現場の声に耳を傾け、「社員の働きやすい経営」に大きくかじを切る。社員がやりたがらないような酔っ払い相手の宴会を止め、社員が夢を持てるブライダル事業などに注力、トップダウンの仕事の仕方から現場に大きな権限を与え、好きなようにやらせた。

 これが功を奏し社員は水を得た魚のように働き、経営再建の大きな原動力となった。「任せれば、人は楽しみ、動き出す」と星野社長は語っているが、久美子社長は社員を信じ、社員に仕事を任せることができていたのか。今から思えば、それが残念でならない。

【プロフィル】松崎隆司

 まつざき・たかし 経済ジャーナリスト。中大法卒。経済専門誌の記者、編集長などを経てフリーに。日本ペンクラブ会員。著書は多数。昨夏に『東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人』を出版。55歳。埼玉県出身。