【マネジメント新時代】AIで渋滞解消 日本での実現に壁

 
お盆休みのUターンラッシュで渋滞する東名高速道路の上り線=8月14日、神奈川県綾瀬市

 □日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

 人工知能(AI)を活用するビジネスは隆盛となっている。ロボット、自動運転車など、AIを活用した例は枚挙にいとまがない。さらなる進展例として、中国杭州市では、アリババグループと杭州市がタッグを組んだAIシステムで、これまでひどかった市内の渋滞をほぼ解消したとのニュースが報道された。では、このようにAIを活用した都市交通の最適化を実現するために、マネジメントはどのような視点で考えなければならないのであろうか。この課題について考えてみたい。

 中国杭州市で官民連携

 交通渋滞といえば、高速道路を思い出すであろう。ゴールデンウイークやお盆の時期など、数十キロに及ぶ交通渋滞が報道されている。いうまでもなく、最大の要因は運転者の交通集中にある。通常、高速道路を運転していなかった人でも、この時期になるとやむを得ず利用する人が急増する。

 また、交通渋滞が発生する個所としては「サグ部」と呼ばれる、下り坂から上り坂にさしかかる凹部が多いとされている。これはドライバーがサグ部の上り坂では無意識に速度が低下し、その結果、後続車は車間距離が短くなったため、ブレーキを踏み、次第に渋滞が増す現象である。

 この対策としては、上り坂の車線を増設したり、自動車メーカーにて、モノのインターネット(IoT)を活用した追従ドライブ支援機能(レーダークルーズコントロール)などの採用も進んでいる。

 しかし、中国杭州市の場合はかなり様相が異なる。上海の南西に位置し、古都と呼ばれる杭州市は、筆者も幾度か訪問したことがあるが、観光地であり渋滞はかなりひどいものであった。それに対し、杭州市とアリババのクラウド事業を担うアリクラウドが連携して、AIによる管理システム「ET都市ブレイン」を導入し、AIが全ての信号と約3600台の交通監視カメラを管理しているとのこと。つまりAIが交通量と信号の点滅時間を制御して、交通渋滞をほぼ解消したようだ。

 また、交通事故が発生した場合は、救急車が迅速に走れるよう、AIにより救急車が行く先々で信号が自動的にグリーンになるよう変更を行い、到達時間を半減したとのこと。このようなことを考えるとき、その採用のためには前提条件が必要となるであろう。つまり、信号や交通監視カメラの情報を民間企業に委ねるか否か、また常時どこに行ってもカメラなどで監視されていることへの可否である。

 AIによる都市交通の最適化は筆者からみると、光と影があり、その採用にあたっては、コンセンサスを得なければならない多くの課題も含まれているように思える。

 個人情報保護が優先

 日本でも慢性的に高速道路、一般道路でも渋滞が発生している。では、このようなAIを活用した都市交通の最適化が実現できるかとなると、それほど簡単ではないように思える。まず、AIをパブリックに活用することに対し、どのような情報を差し出して、どのような利点が得られるのか、または失うのかの議論が十分ではないと思われる。過去にも、JR東日本が発行するICカードスイカで、移動情報をビッグデータとして活用しようとしたが、個人情報保護の観点で問題があるのではとの議論となり、その話は頓挫した。

 もう一方では情報の出し方の問題もある。渋滞学が専門の東京大学先端科学技術研究センターの西成活裕教授と以前に懇談した際も、中国と日本という国の違いもさることながら、日本での課題は、行政、民間も含めて縦割り意識が強く、情報を他に渡さない風潮がある点ではないかとの話となった。例えば、高速道路では多くの走行記録が残っているにもかかわらず、結局それらを活用することがないなどである。

 このように考えてくると、クルマの自動運転化により、交通事故が減ると予想されているが、それだけで渋滞など都市交通の最適化が実現できるとも思えない。AIの進展によりこれまでできなかったことも実現できるなど、海外にて先行し始めている都市もあるが、遅ればせながら日本でも、パブリックとプライベート、何を優先させるのかなど、そろそろ議論していく時期に来ているように思える。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。62歳。福井県出身。