発生から7年半、東日本大震災の被災地で新事業の萌芽 地域活性・着実な復興への歩み加速
東日本大震災の発生から11日で7年半。中小・ベンチャー企業を中心に、被災地を舞台に新しいビジネスが立ち上がりつつある。いずれも現地で新たな雇用を生むことで、地域経済の活性化を後押しし、着実な復興への歩みを加速させるものだ。
京都企業が工場新設
1992年から銀メッキ導電性繊維の開発に取り組んできたミツフジ(京都府精華町)は、福島県川俣町の川俣西部工業団地に新工場を開設。今月中に本格操業を始める。同社は56年に京都で西陣織の帯工場として創業。市場の縮小で2008年に自社工場を閉鎖して以来、約10年ぶりに工場を新設する。
同社は、ナイロンに銀メッキを施した繊維を編み込み、心拍数などを測るシャツ型ウエアラブル端末を販売。働き方改革の機運が高まる中、引き合いが徐々に伸びているという。
福島の新工場は、この着衣型ウエアラブル端末を年間約10万着生産する計画。向こう3~5年で約50人を雇用する計画だ。三寺歩社長は「自信を持って、この地から世界にアピールしたい」と話した。
防災食やプラ代替材
備蓄食開発のワンテーブル(宮城県名取市)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で防災食にも宇宙食にも活用できる備蓄食材の開発に乗り出す。第1弾として5年間の長期保存可能なゼリーを開発し、その後スープやカレーなどメニューを増やす。
同社は同県多賀城市内に工場の建設に乗り出しており、2019年4月に稼働させる。島田昌幸社長は「防災や宇宙と同じように備蓄に厳しい環境である紛争地帯などで暮らす人にも届けたい」と話す。
同市では、石灰石を使ったプラスチック代替材料の開発に取り組む環境素材ベンチャーのTBM(東京都中央区)も工場を建設中で、20年の稼働を目指している。このほど、求人広告のディップ、伊藤忠商事から総額20億円の資金調達を実施。急速に需要が拡大するプラスチック代替材料の量産化を急ぐ。
中小・ベンチャー企業が相次いで、被災地に新ビジネスを展開することで期待されるのが地元の雇用拡大だ。多賀城市の菊池健次郎市長は「新たな企業の誘致や新産業の創出で地元に働きたい人が増えれば、地域の活性化につながる」と話すが、被災地の期待はそれだけではない。
福島県川俣町では、東日本大震災後に起きた東京電力福島第1原発事故による避難指示区域の指定が昨年3月に解除された。経済面での復興はこれからの段階だ。川俣町の佐藤金正町長は「雇用だけでなく、世界中の人々の役に立つ技術、製品が福島から生まれることは町民にも夢や希望を与えてくれるはず」とみている。
被災地への企業立地は、地域で暮らすモチベーション(動機付け)の向上にもつながるといえそうだ。
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