【高論卓説】新アイフォーンへの関心が薄れる必然 「より高く売る」最強アップル陰りなし

 
8月にプレス向け内覧会がおこなわれた「Apple京都」、日本でも世界初の“和”デザインの直営店を公開するなど幅広く展開している=8月23日、京都市下京区(寺口純平撮影)

 米アップルは12日(米国時間)、カリフォルニア州クパティーノの本社内で、スペシャルイベントを開催する。昨年もこの日にイベントを開催し、新しいiPhone(アイフォーン)と新しいApple Watch(アップルウオッチ)を披露した。

 今回も、3つのアイフォーンと新しいアップルウオッチが発表されるとみられており、事前からリーク合戦が盛んに行われた。リーク情報を総合すると、「有機EL採用のアイフォーンテン」というエポックメーキングな出来事があった1年前と比較すると、それほどの大きな進化は見込まれていない。そのため、静かな発表会になりそうだ。

 しかし、だからといってアップルへの幻滅が広がるわけではない。特に日本と北米におけるアップルのブランド力が圧倒的である。好調な利益を受けて、株価は今年に入ってから順調過ぎるほど上昇を続けており、8月2日には1兆ドル(約110兆円)の大台を突破。史上初の1兆ドル企業は9月10日時点で1兆700億ドルをつけている。後ろからはアマゾン・コムが猛追しており、間もなく時価総額でも逆転されるとみられるが、それでも「世界最強企業」としての存在感に陰りはない。

 なぜ、変化が著しいテクノロジー業界においてアップルは圧倒的な強みをキープできているのだろうか。2007年の初代アイフォーン発売から10年以上も、トップブランド(販売数では首位ではないが利益では圧倒的)を維持しているのは何とも不思議である。

 その疑問への明快な回答を見つけた。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの特異な成功について詳述した『the Four』著者のスコット・ギャロウェイ・ニューヨーク大学ビジネススクール教授は、アップルを「最高級ブランドのビジネスモデルと似ており、テクノロジー企業ではない」と断じている。「アップルの現在の事業は人々に製品、サービス、そして感情を販売することだ」

 テクノロジー企業ではない、という表現は、アップルに対する揶揄(やゆ)の言葉ではない。テクノロジーにまともに取り組んでしまうと「より多くをより安く提供するという哲学(ムーアの法則)」に縛られてしまう。そのため、一時的に栄華を極めたとしても短期間で没落してしまうリスクがある。それに対し、「より高く売っていく」ことを目指す最高級ブランドのビジネスモデルであれば、栄華の時代が長く続くのである。

 アイフォーンは発売から10年以上たち、販売台数では世界シェア15%程度にすぎない。しかし、利益面では圧倒的な強みを持っており、「全世界のスマートフォンメーカーが稼ぐ利益の80%を占めている」とギャロウェイ教授は指摘する。

 スマホが世界における最も重要な消費者向け端末である限り、そしてスマホにおいて盤石の利益シェアを維持できている限りにおいて、アップルは何も慌てる必要はない。それゆえに、アイフォーンの進化とは、「既に他社が採用しているような技術や機能を1~2年後にモノマネして取り入れていくこと」になって久しい。

 ギャロウェイ教授が言うように「テクノロジー企業ではない」のであれば、この進化のありようは、何ら不思議なものではないのである。アップルの発表会があまり話題にならないということは、むしろアップルが順調である証拠なのかもしれない。

【プロフィル】山田俊浩

 やまだ・としひろ 早大政経卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。週刊東洋経済の編集者、IT・ネット関連の記者を経て2013年10月からニュース編集長。14年7月から東洋経済オンライン編集長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)。