【埼玉発 輝く】ラグビー用ホイッスル製品化、W杯採用に夢 小柴製作所

 
「MADEINJAPAN」の文字が刻まれているホイッスル(大楽和範撮影)

 埼玉県南西部に位置し、人口約11万4000人を擁するふじみ野市。同市のホームページ(HP)では、「都心から30キロの首都圏に位置しながらも、豊かな自然が残り、交通の利便性を生かした商品流通業や首都近郊農業などが盛んなまち」と紹介されている。そこに1980年創業、社員9人の町工場・小柴製作所がある。大手楽器メーカーの下請けとして、主にサックスやフルートなど楽器の部品加工を手がけてきた。

 初の自社製品へ

 同社の小柴四郎社長は、「会社を設立してから、いずれは自社製品をつくりたいと思っていた」と振り返る。そんな矢先、小中学生にラグビーを教えている従業員が、「チームのスタッフから『楽器の部品の加工をしているんだよね。ラグビー用のホイッスルをつくれない?』と聞かれた」と打ち明けられた。

 その一言に、技術屋としての血が騒いだのが、ホイッスルの開発を担当した小柴一樹取締役。社長の長男だ。「ホイッスルは楽器と同じで音がポイント。会社が長年蓄積したノウハウや、楽器に使われる素材『真鍮(しんちゅう)』の加工技術も生かせるのではないか」と考え、2年前から実際に手を動かして試作を始めた。

 国内外のメーカーのホイッスルを集め、ばらして構造を研究。半年後、試作品が完成した。「吹いた息が抜けて、音が頼りなかった。これでは100円ショップの笛の方がよっぽどいい」。開発当初は従業員と一緒に楽しくつくっていたのに、結果は全く出ず「『少し甘くみていたかも』と現実を突きつけられた思いがした」と当時を思い返す。

 加えて、試作品は既存品と比べ、かなり高い音が出た。ラグビー用のホイッスルは、低い音が出るのが一般的。タックルなど選手同士が激しくぶつかり合うため、笛の音で選手を刺激させないようにするためだという。

 早速、改良に着手すると「どんなホイッスルが正解なのか分からなくなってしまった」。国内で使われているラグビー用ホイッスルの8割が海外製だが、海外製は息をたくさん使って音を出すのが特徴。「1試合吹き続けると、頭が痛くなる」という声も聞いた。「楽器の部品加工を長年やってきた小柴製作所としての音、そして吹きやすさを追求したホイッスルをつくるべきだ」との結論に達した。

 国内唯一のメーカー

 理想の音を求めるべく、空気の出入り口の調整を1ミリ単位で行うなど試行錯誤を続け、昨年5月に完成。同年9月に発売した。

 ホイッスルの表面には「MADE IN JAPAN」の刻印がされている。現在、国内でラグビー用ホイッスルを製造する会社が他にないことから、「国内はもとより、世界で使われるような商品になれば」と期待を込める。

 今月23日には、来年、埼玉県熊谷市などで開催されるラグビーワールドカップや、2020年東京五輪・パラリンピックなどをきっかけに、県や熊谷市が未来に向けて発展することを願ったイベント「熊谷圏オーガニックフェス2018」が開催される。その中で、県内63市町村の名産品などを紹介するコーナーが設けられ、ふじみ野市代表として同社のホイッスルが展示される。

 現在の夢は、来年のラグビーワールドカップで、レフェリーに使ってもらうこと。「うちのホイッスルのファンが一人でも増えたら」と話す。(大楽和範)

【会社概要】小柴製作所

 ▽本社=埼玉県ふじみ野市大井中央3-27-6 ((電)049・264・4316)

 ▽設立=1980年7月

 ▽資本金=300万円

 ▽従業員=9人

 ▽売上高=約7500万円(2018年8月期)

 ▽事業内容=楽器の部品加工

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 □小柴一樹取締役

 ■試行錯誤の中に成功へのヒント

 --従業員の何気ない一言が、ホイッスルの開発につながったが

 「私が入社した当時、リーマン・ショックが起きた。主要取引先の大手楽器メーカーからは『関係ないから大丈夫』といわれていたが、その何年か後に工場撤退の知らせが入った。『これからどうしたらいいか』と社内全体が暗くなっていた中で、突然ホイッスルの話が舞い込み、『頑張ってみよう』という気になれた」

 --自社製品のホイッスルの反響は

 「正直、これだけ反響があるとは思わなかった。何よりうれしいのは、従業員がみんな明るく、元気になったことだ。下請けの町工場が、自社製品をつくったというのも自信につながっていると思う。社内が明るくなると、本業の仕事にもいい影響が出てくる。実際に、大手楽器メーカーの工場撤退直後と比べると、だいぶ盛り返してきている」

 --ものづくりの醍醐味(だいごみ)は

 「やはり完成したときのうれしさは何事にも変えられない。いろいろな課題にぶち当たり、失敗を重ねているとモチベーションが下がってしまう人も多いと思うが、自分は逆にやる気が出るタイプなので決して諦めなかった。試行錯誤の中に成功のヒントが隠されていることもあって、それを見つけ出すのも、ものづくりの醍醐味の一つだ」

 --社長から代替わりを打診されたことは

 「父親も70歳を超え、『そろそろどうか』という話はもらっている。ただ、今はホイッスルが完成し、販売も好調という状況で、別の新製品開発の可能性も模索している。そんな中で、社長を引き受けると、経営を第一に考えないといけなくなる。父親も幸い元気なので、もう少し自由な立場で仕事ができればと思っている」

【プロフィル】小柴一樹

 こしば・かずき 大学卒業後、印刷やアパレルの仕事を経て、2008年、29歳で家業である小柴製作所に入社。15年から取締役。39歳。埼玉県出身。

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 ≪イチ押し!≫

 ■消防士や電車車掌からも問い合わせ

 ホイッスルは2種類用意している。両サイドの角を取って丸く仕上げた高級タイプは、加工賃が上乗せされて価格は8100円、通常タイプは5184円だ。

 すでに会員制交流サイト(SNS)を活用して、700個近くを販売した。

 製造するきっかけとなったラグビーチームのスタッフは、「『多く息を吹き込まなくても、いい音が出る』ととても喜んでくれた」という。

 最近はラグビー関係者以外にも、体育の先生や消防士、電車の車掌からも問い合わせがあったそうで、反響の大きさに驚くこともしばしば。

 「まだ、本業に比べたら売り上げも微々たるものだが、今後、事業の一つの柱として育てていきたい」(小柴一樹取締役)と意気込む。