【プロジェクト最前線】滞在時間を価値化、タイム イノベーション「新ポイントサービス」
加盟店のファンつくる
買い物をすると金額に応じてたまる「ポイントサービス」が進化を遂げている。さまざまな店舗で使える共通ポイントをはじめ、搭乗距離に応じて付与される航空会社のマイレージなど、生活に密着したサービスとして市場も拡大の一途を続けている。そんな中、店舗などの施設内に滞在した時間をポイントに換えるユニークな新サービスも始まろうとしている。手掛けるのは7月に設立されたIT企業「タイム イノベーション」(本社・シンガポール)。同社の佐和田悠葵(ゆうき)CEO(最高経営責任者)は「お金ではなく利用者が使う時間に価値をつけるのがミソ。ただ単にポイントをためるだけではなく、差別化されたサービスが提供できる」と強調する。同社では、3年後にポイントサービスの日本市場の1割のシェア獲得を目指している。
長さに応じてメリット
新サービスは、加盟する飲食、物販、アミューズメントパーク、水族館、パチンコ店といったレジャー施設などを利用した際、店内や施設内に滞在した時間に応じてポイントを付与する仕組み。利用者はたまったポイントを、加盟企業が用意した割引などの特典やサービスで利用できる。
佐和田氏は「利用者は時間という価値を加盟企業に提供し、一方、加盟企業は利用者の呼び込みや滞在時間の延長を促すことができる。お金を使わなくても滞在してくれるだけで、広告効果などで店舗には大きなメリットがある」と話す。
利用者は、まずスマートフォンに専用アプリをインストール。スマホの無線通信技術を使い、加盟企業の店内などに設置したビーコンと呼ばれる手のひらサイズの電波送受信装置を通じ、来店した利用者の滞在時間を把握することができる。利用者には滞在した時間に対してポイントが付与され、ためたポイントを使用することができる。また、DMP(データマネジメントプラットフォーム)と呼ばれる手法を活用。ビーコンから利用者の位置情報を取得し、行動情報を読み取って利用者に今必要な情報を提供し集客につなげる仕組みも取り入れている。
それでは、新サービスはどんなケースが想定されるのか。
例えば、見学するのに平均1時間半かかる水族館で、「あと30分滞在するとポイントが数倍加算される」とアプリに表示すると、利用者に30分長く滞在しようという気持ちが湧いて、館内をさらに回遊する可能性が高くなる。結果として、お土産やグッズ売り場に立ち寄り、買い物をしてくれるケースが増えることが期待できる。
また、アミューズメントパークで行列に並ぶとして、その時間をポイントとしてためれば、次回は優先的に入れるパスに交換できるといった特典をつけることもできる。
企業側は利用者の行動データを集めることで、「ユーザーが何を望んでいるかも分かる。そこから顧客を格付けするなどして、より頻繁に利用してくれる顧客を厚遇するなどの差別化ができる。飲食店やレジャー施設などのファンづくりにうってつけ」(佐和田氏)という。
海外含め来年度開始
新サービスは狭いエリア内での位置情報などを細かく把握できるのも特徴だ。例えば、飲食店でテーブル席、カウンター席のどちらを利用するかが把握できるため、くつろぎにくいカウンター席の場合にはポイントを多く付与することができるという。来店が減るランチタイム後といった時間帯の利用に多くのポイントをつけることもできる。さらにパチンコ店の場合、滞在時間が把握できるので、例えば月に50時間利用するヘビーユーザーに対し、声掛けをしたりコーヒーを無料提供することも可能という。
同社は年内にも一部店舗で新サービスの試験運用を始め、来年度中の事業開始を目指す。欧州や米国、アジアでも展開する計画で、ワールドワイドで同社のポイントによる経済圏を構築する構想だ。
佐和田氏は「誰もが平等に持つ時間に価値をつけ、世界の人々が豊かになるサービスを目指していきたい」と意気込んでいる。
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≪焦点≫
■ポイント市場 20年度に2兆円突破
国内のポイントサービス市場は2020年度に2兆円(ポイント発行額ベース)を突破する-。矢野経済研究所がこのほど発表した国内ポイントサービス市場の調査予測でこんな結果が出た。
17年度の市場規模は前年度比5.0%増の1兆7974億円に拡大。ポイントサービスを導入する事業者がさらに増加することや、加盟企業1社で複数の共通ポイントサービスを取り入れるケースがさらに見込まれ、18年度は前年度見込み比5.1%の1兆8884億円まで拡大すると予測した。22年度は2億2674億円にまで拡大し、今後年率4~5%の堅調な成長が見込めるとしている。
これまでは1業種1社での共通ポイントを導入するケースが多かったが、近年はマルチポイント化が加速。複数の共通ポイントを発行する事業者に加え、独自ポイントや販促などを目的にして共通ポイントを発行する事業者も増加しているという。
こうした導入業者のニーズに対応すべく、ポイント管理や端末ベンダーは複数の共通ポイントサービスへの対応や、決済サービスと連携した端末の開発・販売を進めているという。
今までポイントを発行してこなかった事業者も、ポイント発行によるマーケティング効果を無視することができなくなるとも指摘。今後ポイントサービスは、単なる顧客の囲い込みではなく、巨大企業の会員顧客が自社への顧客集客につながるなど、新規顧客開拓にメリットを感じる事業者が増加していくと予測している。
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