【高論卓説】中国SNS社会、成功の鍵 心に響くクリエーティブ力が不可欠

 
※写真はイメージです(Getty Images)

 成長が続く中国の10のインターネットプラットフォームで、動画再生総回数が11億回を超える、お化けコンテンツをプロデュースしている日本人がいる。山下智博氏だ。11億回という気の遠くなる数字ももちろんすごいが、山下氏が中国のネットの中で、なぜこんなにも支持されているのかを知ることは、マーケティングに携わっている人にとっては垂涎(すいぜん)のヒットのツボであろう。

 先日、デジタルハリウッド大学において「山下塾連続講座2018~中国に響く動画コンテンツ・プロデュース手法」が開催され、山下氏の魔法のような手法解説にビジネスパーソンが多数集まった。

 7年前に中国・上海に来た同氏が注目したのは、表には出さないが、中国の若者の深層心理の中にある、日本への漠然とした興味や超競争社会が生み出す漠たる未来への不安感だった。その若者の心を捉えて展開した動画が瞬く間に中国の若者の心に入り込み喝采(かっさい)を浴びることになる。

 ちょうどスマートフォンが都市部の若者の必須アイテムになった時期でもあり、中国におけるSNS社会の幕開けにも重なった。個人の心のありようを映す鏡としてのスマホとの対話の中で、魅力的なコンテンツが広がりを見せた。

 動画コンテンツのノウハウを惜しげもなく披露した山下塾では、全く中国語ができなく、さらに動画コンテンツ制作の技術もおぼつかない頃から現在に至るまでの、たゆまない努力が披露された。その結果から、得られた貴重な動画コンテンツのヒット法則は、理論を越えたリアルな現場の知恵として説得力があった。

 一般的な「バズマーケティング」の理論とともに、山下氏が強調する最後まで見られる動画の極意は「テンポ」「展開」「視覚効果」「ワンテーマ」「間」「聞き心地」「喜怒哀楽」「先が読めない」「キャラが良い」「知識が増える」「フリとオチがある」だという。

 いずれもコンテンツマーケティングに携わっている諸兄には納得のいくものであろうが、それをSNS社会の日々の活動の中で体得し、表現しPDCAを回してたどり着いた。そうして培ったクリエーティブ力こそが11億回再生の源なのだ。

 ネットマーケティング花盛りの昨今、とかくセオリー通りの最適化が重視される。さらには効率化への掛け声の大きさが無駄な動きや考えを排除して、ROI(投資対効果)やCVR(顧客転換率)の数字に企業も個人も振り回される。しかし、山下氏の成功の鍵は一見、漠然としているが実に明確な人間の心をターゲットにした、その心に寄り添うクリエーティブ力の発揮だ。SNS社会の今、ネットマーケティングのコアストラテジーは人の心に響くクリエーティブ力をいかに生むかだ。

 スマホの普及で今後、現在の中国のように強大なマーケットとなる発展途上国。スマホの影響力はそれらの国がいきなりSNS社会になることを暗示する。その際に、最も必要なのは、そのSNSを十分に活用するコンテンツの力だ。そのコンテンツの力を最大に引き出すのがクリエーティブ力なのだ。山下氏の成功の教訓は、日本が世界に向けてのビジネスで最も足りていないクリエーティブの重要性を教えてくれる。技術や勤勉さだけではこれからのSNS社会は乗り越えられない。

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【プロフィル】吉田就彦

 よしだ・なりひこ ヒットコンテンツ研究所社長。1979年ポニーキャニオン入社。音楽、映像などの制作、宣伝業務に20年間従事する。同社での最後の仕事は、国民的大ヒットとなった「だんご3兄弟」。退職後、ネットベンチャーの経営を経て、現在はデジタル事業戦略コンサルティングを行っている傍ら、ASEANにHEROビジネスを展開中。60歳。富山県出身。