【高論卓説】米難関大が示唆する高等教育の在り方 企業が望む実践教育を徹底実行
今、米国の小さな新興大学にハーバードやスタンフォードなど一流大学を蹴って入学してくる学生が後を絶たないという。しかも、その大学にはキャンパスがない。つまり、教室がない。従来の大学とは全く違った教育コンセプトを提供するこの大学になぜ世界中から優秀な学生が集まってくるのか。しかも合格率はわずか1.9%だ。
ミネルバ大学は2014年にサンフランシスコ(カリフォルニア州)で開校した。しかし、サンフランシスコにあるのは小さな本部と学生寮だけ。セミナーと呼ばれる授業は全てオンラインで午前中のみ、午後は各自インターン先の現場で研修を受け、個別の研究テーマにいそしむ。教授も全米各地からオンラインで合流し授業を受け持つ。
セミナーの参加者は教師を含め20人と決められている。授業ではWHAT、つまり既成の知識を学ぶというよりも、むしろテーマに沿ったHOWが徹底的に議論される。各自のモニターには教師とクラスメート全員が写っている。授業中の発言数や内容が重要だ。モニターの表示を見れば誰がどの程度発言しているかが分かる。つまり、バーチャルではあるが円形テーブルに座ってお互いを見ながら議論するのと同じ環境である。したがって、居眠りなどできない。
ミネルバ大の教育目標は、リーダーシップと革新的な考え方を持ちながら、多角的な思考も持つグローバルシチズン、つまり世界のどこでも通用する人材の育成と彼らに実践的な能力と知恵をつけることに尽きる。実践的能力と知恵とは、将来学生が社会で遭遇する未知の分野でも応用できる思考法やコミュニケーション技術のことだ。
全ての学生にとって米国内のアクティブラーニング(実践授業)のほか、グローバルな経験も必須である。全学生は卒業までに世界の7カ国で実際に現地に赴き4カ月間の研究活動やインターンを経験することが求められている。徹底した実社会への応用と異文化環境での実証研究だ。
彼らは28カ月間、実に在学期間の半分以上を海外で過ごす。もちろん、海外研修中も午前中のオンラインセミナーは行われる。現場で経験したことを各自授業に持ち帰りプレゼンテーション、ディスカッションを繰り返す。学生たちはブエノスアイレス(アルゼンチン)、先生はボストン(米マサチューセッツ州)からログインなどは日常である。
キャンパスがないから学生ホールや食堂、立派な図書館もない。施設への投資は大学経営を圧迫するばかりではなく、学生の学びには直結しないとミネルバ大は割り切っている。したがって学費も全米有名校と比較して3分の1だ。徹底的にカリキュラムにITを利用し、大学の全ての資源を学生に投資する。ここがハードウエアにばかり投資する他の大学との最大の違いだ。
ミネルバ大の実践教育で鍛えられた卒業生は今後世界にどんな影響を与えるのだろうか。アマゾン・コム、テスラ、グーグル、アップルなど米国企業は貪欲に彼らを採用するだろう。が、就職予備校と化した日本の大学で大量生産された同一規格の学生ばかり採用してきた日本企業には、果たして彼らを受け入れるだけの度量があるのだろうか。
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【プロフィル】平松庚三
ひらまつ・こうぞう 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経て、アメリカン・エキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長(現職)。他にも各種企業の社外取締役など。72歳。北海道出身。
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