首都圏私鉄、快適車両で沿線価値向上へ 「乗りたい」車両で「住みたい」狙う

 
東急電鉄が田園都市線に導入した「2020系」。車両の先頭形状は丸みを帯びた柔らかみのある顔をイメージした

 「おしゃれ」「癒やされる」-。“痛勤”電車と揶揄(やゆ)されてきた東京都心に向かう首都圏の私鉄に、乗って心地よい車内をアピールする新型車両が導入され始めた。東京急行電鉄は背の高い座席と木目調の床で居心地の良い空間を創出、相模鉄道は大手私鉄で初めて朝と夜で色調が変わる照明を導入した。従来の車両メーカーに任せた設計とは違うデザインは好評で、「乗りたい」車両がもたらすイメージアップで路線のブランド価値を高め、沿線に「住みたい」につなげる狙いだ。このブランド戦略に一役買ったのが商業・文化施設など空間づくりのプロ、丹青社だった。

 街や駅と調和

 「混雑が激しいとか、到着が遅いとか、おしかりの声をいただく殺伐とした朝を快適なものに変える」

 東急電鉄の門田吉人・運転車両部車両課長は田園都市線に今年3月登場した新型車両「2020系」のパンフレットを開きながらこう強調した。

 「おしゃれな沿線の街や駅と調和する車両」にするため、コンセプトカラーに車窓からの緑とあう「インキュベーションホワイト(美しい時代へ孵化(ふか)していく色)」を採用、先頭形状は丸みを帯びた柔らかみのあるうりざね顔をイメージした。

 内装にもこだわった。座席は背もたれを高くしたハイバック仕様を採用し快適性を向上。荷棚の位置を低くし荷物の積み下ろしを容易にした。照明は明るすぎず(白色が強い)、暗すぎない(黄色が強い)リラックス感のある色合いを取り入れた。

 門田氏は「親しみやすい、心地よいをテーマに、座席や照明を含め室内全体のカラーコーディネートにこだわった。乗客からは『こんな車両がいいよね』『(木目調の床をみて)木の香りを感じ、落ち着く』など最高の評価をいただいた」と笑う。

 現在は10両編成5本が運行されているが、年末には9本まで増やす。来年度以降も順次導入し、2022年度には全車両が2020系に切り替わる。

 「動く広告塔」

 一方、悲願の都心直通を控える相鉄は今年2月、車両を横浜の海をイメージした濃紺色(ヨコハマネイビーブルー)で塗装し、高級車を思わせるグリルとヘッドランプでインパクトある先頭形状に仕上げた「20000系」を導入した。

 神奈川県を基盤に運行する相鉄が、これまでのイメージを一新するためにデザインした新型車両で、19年度下半期からのJR線に続いて22年度下半期から始まる東急線との相互直通運転に使われる。相鉄ホールディングス経営戦略室の鈴木昭彦課長は「ローカル企業が東京進出という節目を迎える。イメージアップを図る好機ととらえ、車両にデザイン性を持ち込むことにした」と説明する。

 相鉄グループは昨年12月に迎えた創立100周年を機に認知度や好感度の向上を狙って駅、車両、制服などのデザイン刷新を開始。16年には、20000系に先駆けて「9000系」をリニューアル、車両外観に濃紺色を初めて採用した。内装は落ち着きのあるグレーをキーカラーに、「朝は気持ちよくさわやか、夜は安心する優しい光」というように昼と夜で色調を変える調光機能付照明や英国スコットランド製本革を使用したボックスシートを導入。利用者から「イケメン電車が来た」「リラックスできる」と好評だ。

 相鉄グループは都心乗り入れを大きなチャンスととらえる。そのためのデザイン刷新で「車両は沿線外にグループの魅力を発信する“動く広告塔”と位置づけ、認知度を高める」(鈴木氏)戦略だ。「沿線が意外と近く通勤圏内と知ってもらえば、来てもらえるし、住んでもらえるかもしれない」と期待する。

 デザイン重視に転換

 両社とも「デザインはこれまで車両メーカーが考えて提案してきた」(門田氏)という。安全に乗客を運ぶことに主眼を置き、通勤車両は旧態依然とした工業デザインが多かった。しかし「デザインなくして家電が売れない」(鈴木氏)ように、乗客を増やすには機能に加え、デザインが欠かせなくなった。

 そこで声をかけられたのが空間デザイナーの丹青社だった。商業施設などの空間づくりでかかわってきたからで、東急のコンペを勝ち抜いたデザインセンターの上垣内泰輔プリンシパルクリエイティブディレクターは「車両のことは知らなくてもいいので、インテリアデザイナーとして参加してほしいと打診を受けた」と打ち明ける。

 東急らしい親近感と先進性から田園都市線の沿線住民のライフスタイルを調べ、ベースカラーを選定し先頭の顔を決めた。「車両を移動のための道具ととらえず、沿線に住む人のリビングルームを動かすという提案を行った」(上垣内氏)という。

 「安全・安心・エレガント」という相鉄のデザインコンセプトから膝詰めで議論してきたのは洪恒夫エグゼクティブクリエイティブディレクター。「通勤電車は日常使いの住民の足。住んでもいいなと思える沿線価値向上を狙いに車両をデザインした」と説明、20000系には高齢者や子育て世代に配慮し、立ち座りが容易なユニバーサルデザインシートとベビーカーなどのフリースペースを設けた。デザイン車両が「選ばれる沿線」の実現を後押しする。

 洪氏は「われわれは目に見えるところをスタイリッシュにするのが仕事。デザインがビジネスにかかわることに企業が気づくようになった」と指摘する。誰にも愛される空間づくりを手がけられるプロの活躍の場が広がりそうだ。(松岡健夫)