【高論卓説】安倍政権「最後のドラマ」は 霞が関解体的な地方分権に期待

 
自民党総裁選で連続3選を果たし、記者会見する安倍首相=20日午後、東京・永田町の自民党本部

 見方にもよるが、盛り上がらないままに自民党総裁選が終わった。個人的には、米中通商戦争などに揺れる不安定な国際関係などに鑑みれば、各国首脳間での存在感の大きい安倍総理の続投が望ましいと思っていた。何より、緊急事態などへの対処において安定感のある「チーム安倍」(菅官房長官、今井秘書官など)が存続する方が、当面の荒波を乗り越える上では好ましい。

 事実上、国のトップを決める選挙なので、もう少し国民的関心が高まっても、とは思うが、そもそも政治とは、水や空気の激減時のように存在感を持つ。つまり、国民生活の安定時に意識されることはまれだ。現在の関心の低さは良いことと考えるべきかもしれない。

 残り3年で安倍総理は何をすべきか。現行ルール上、その次(4期目)はないので、レームダック(死に体)化するとの声もある。そうならないためにも、国民の関心をひきつける「大きなドラマ」が必要だ。

 2012年末に現安倍政権が成立してからしばらくは、大掛かりな金融緩和策(アベノミクス)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加といった、世論や党内を二分する大ばくちを成功させた。

 しかし、その後は、14年の地方創生、15年の一億総活躍、16年の働き方改革、17年の全世代型社会保障など、反対の少ない耳あたりの良い政策の打ち出しがメインだ。ネーミングなどを工夫して国民の耳目を集めるが、すぐに忘れられる。初代地方創生担当大臣の石破氏を知っていても、現在の担当大臣を言える人はまれであろう。

 やはり長期政権であった小泉政権の末期に、大ばくちであり国民的関心が高まった郵政民営化を実現したことは示唆深い。安倍政権の「郵政民営化的ばくち」は何か。恐らく、総理本人の希望は、憲法改正・北方領土問題解決・北朝鮮による拉致問題解決などであろう。大きな反対を押し切ってでも任期中に道筋を付けたいと思っているのではないか。

 それらももちろん重要政策だが、個人的には、今回の総裁選で、安倍総理がほぼ触れず、逆に石破氏が、地方票の獲得も狙ってか、強調していた地方創生、特に「霞が関の権限を大きく地域に移す地方分権」を最後のドラマとして期待したい。

 かれこれ6年ほど地域の活性化に携わり、7つの市と町で経済活性などのアドバイザーを務めるに至った私の実感として、つまるところ、地方創生とは、まず、「わが町の地域アイデンティティーは何か。何で食っていくのか。」を明らかにするところから始まる。クリエイティブ・クラス(フロリダ博士)ともいわれるリーダー(始動者)層をどう育てる(集める)かが鍵だ。

 先週、小泉進次郎氏がよく地方創生のモデルとして引用する島根県海士町(隠岐諸島)を訪問した。本州の七類港からフェリーで3時間、2500人弱の人口ながら約5分の1がIターン居住者(故郷ではない方)だそうで、カキ、サザエ、牛肉などを「輸出」して自立を目指している。高校教育も、島外から多くの学生を集めていて元気だ。

 こうした各基礎自治体の自立を促進し、それを支える始動者たちを育てたり集めたりするには、権限を各地に移さなければならない。また、明治以来の中央集権体制を地方分権体制に大転換することは、大きなドラマたりうる。具体的には、所得減税(国税)と住民増税(地方税)のセットでの実施などは、度重なるスキャンダルで財務省が弱っている今がチャンスであろう。政権の今後に注目したい。

【プロフィル】朝比奈一郎

 あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。45歳。