ドローン物流 ANAのやる気 将来の事業化見据え年内にも実証実験
国土交通省と環境省が連携募集した「(小型無人機)ドローン物流」検証実験の事業者の一つに、ANAホールディングス(HD)が選ばれた。同社が設定したテーマは「離島への物流」で、年内に実験する準備を進めている。ANAHDは「空飛ぶ車」の2020年代の実用化を目指す8月の官民協議会にも参画しており、今回の実証実験を通じて、ドローン運航事業を将来の収益事業に育てるための経験にしたいという。その本気度はどれほどなのか。
山間部や離島配送
今回の実験では、山間部などへ荷物をドローンで届ける配送モデルの早期実用化を目指すためのもので、二酸化炭素(CO2)排出量削減と費用に対する効果などについて検証する。
実験場となる地方自治体がドローン事業者と計画を進めることになっていたため、ANAHDは福岡市、ドローンメーカーのエアロセンス(東京都文京区)と協議会を形成した。
ANAHDがテーマとしたのは「離島」。福岡市沖合の玄界島は、同市内の博多港から定期船が就航しているほか、唐泊(からどまり)港からも物流のための船が出る。船の代わりにドローンが荷物を届けるという構図だ。
実験は11、12月ごろを予定。詳細は調整中だが、「日常と非日常(災害)の2つのシナリオを用意して、ドローンで物資を運ぶような実験をしたい」とドローン事業化プロジェクトのディレクター、保理江裕己さんは話す。「どんな場面でドローンが活躍できるのかを判断したい。離島への運搬手段に使うことで、ドローンで生活が便利になるようにしたい」
具体的なCO2削減量や費用に対する効果を試算する必要があるが、ドローンは充電式のため「船よりもランニングコストは安くなり、CO2排出量も減るはず」と保理江さんは見積もる。
航空機を操り、人や物を運んできたANAHDが、なぜドローン事業に本気なのか。
「ANAは航空機を飛ばすオペレーター(運航事業者)として知見を蓄えてきたし、(同じ)飛行体のドローンでも出る幕はある。『ドローン運航事業者』の地位を狙いたい」とチーフ・ディレクターの津田佳明さんは話す。津田さんと保理江さんが属するのは「デジタル・デザイン・ラボ(DDL)」。17人のメンバーのうち、専任は津田さんと保理江さんのみで、残る15人はパイロットや整備など航空機の運航系に携わる“主業務”を抱える。
DDLの設立経緯もユニークだ。ドローン活用のための官民対話が開かれた15年、ANAHDの片野坂真哉社長は「世の中でこんなこと(ドローンが脚光を浴びていること)が起きているのに、ドローンが一機もない。社内で話題にならない」ことに危機感を抱いたことがきっかけだ。将来の事業化を見据えた試行錯誤のため、16年4月、DDLが誕生したという。
現在、DDLを担う津田さんによれば、ドローン運航が事業化できるようになるためには「上空で秩序立って飛ぶための管制、ライセンス制度などさまざまなインフラ整備が必要」と指摘する。ANAHDは産官学によるドローン産業空間の創出を目指す共同体「日本無人機運行管理コンソーシアム」の設立に参画。航空業界との連携や運航事業者としてのノウハウを提供し、管制システムの検討などに関わってきた。
ANAHDは、インフラや管制システムができてから乗り出すのでは遅いと、自社内の取り組みも進めてきた。
整備利用も検証
例えば、航空機が飛行中に雷に打たれた際、へこみができる場合がある。これは着陸後に整備士が目視で確認するが、ドローン搭載カメラを導入すれば作業時間を短縮できるか、昨年2月に大阪(伊丹)空港で実験した。福島県などが整備するロボット開発拠点「福島ロボットテストフィールド」(相馬市)では昨年に2回、配送実験も行っている。
今年度は、傘下のANAセールスが販売する沖縄の旅行商品で、慶良間(けらま)諸島でのシュノーケリングを対象に、ドローンで動画撮影するサービスを展開。こちらも実証実験の位置づけだが「かなり好評で続けるかもしれない」(津田さん)。
将来、ドローンが人を運ぶ「空飛ぶ車」は実現するのだろうか。津田さんは「人を運ぶのは機体性能が上がってからで、まずは貨物。ただし、旅客輸送こそANAの安全運航に対する経験が生かせる。4、5人が一度に運べるようになれば将来性もある」という。保理江さんも「現在普及するドローンは“フライング・カメラ”。街中でのドローン配送も、自動運転車が実用化された後は、適材適所ですみ分けたり連携したりすることになっていく。そんな将来にするためにも、ドローンが安全に使えるようになる環境を、今、きちんと構築することが必要」と指摘する。
世界を見渡しても、ドローン運航の事業化に取り組む旅客航空会社はほとんどない状況だ。目指す未開の地がANAにとっての「ブルーオーシャン(未開拓の新市場)」になるかどうかに注目したい。(日野稚子)
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