新卒者内定式 就活見直し、変わる一括採用 企業と大学、新たな連携模索

 
NTTドコモの内定式であいさつする吉沢和弘社長=1日、東京都港区

 産業界が口火を切り、政府が混乱を心配する就職・採用活動ルール見直し論議の中、2019年春入社の新卒者内定式が1日、多くの企業で行われた。19年春入社組の就職活動は、ちょうど10年前のリーマン・ショック以降で、「最も高水準の売り手市場」とされる。学生に痛みが伴う可能性のある就活ルールの見直しも、こうした良好な就職環境の時期だからこそやりやすいとの指摘がある。日本型終身雇用の基礎である新卒一括採用の見直しの議論が、産業界と大学、政府の間で10月中にもスタートする。

 前倒しで長期化問題

 経団連の中西宏明会長が一石を投じた大学生の就活ルールの見直し。ルールが切れる現在の大学2年生が対象の21年春入社の就活はどうなるのか。終身雇用の土台だった日本特有の一括採用はどう変わり、企業と大学はどう連携していけばいいのか、議論の行方に関心が高まっている。

 経団連は「採用選考に関する指針」(20年春入社まで適用)を守る会員企業が採用で後れをとったり、指針が解禁破りで形骸化したりしているとして、21年春入社からは指針を策定しない方針。これに対し、政府は混乱回避のため、21年入社に関しては現行ルールをIT系や外資系、中小企業などにも要請する見通しだ。

 就活の時期をめぐる議論は1950年代後半から繰り返され、96年にそれまでの就職協定が廃止された際は、早期化に拍車がかかった。リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長は「前倒しによって企業は内定学生の長期の囲い込みを強いられ、辞退率の悪化も見込まれる。学業への影響もあり、前倒しで問題なのは早期化ではなく長期化することだ」と指摘。中西会長は「(政府要請に)逆らうつもりはない」としており、21年春入社の採用面接や筆記試験は6月1日、内定は10月1日解禁のままの可能性が高い。

 ■職種別採用、一定割合で必要

 経団連指針は本来、会員企業向けの自主ルールで、外資系や非会員企業、中小企業には縛りがないが、首相が変更を要請するなど国内の統一基準のように扱われてきた。大学教育にも関わる公的性格を持つため、政府主導の議論の場で、産業界と大学が意見交換して見直す案が浮上する。

 だが、大久保氏は「採用は企業の経営行動で競争力の源泉。一つの正解があるのではなく、一定の自由度は担保されるべきだ」と指摘する。指針策定から手を引く経団連も、「大学改革と併せ、本質的な議論を深めたい」としている。

 日本の新卒一括採用は「世界に例のない仕組みで評価されてきた」(大久保氏)。海外では、景気の悪化で学業成績のいい人でも就職できないとして社会問題になることもあるが、「日本は新卒就職率が90%下回ると氷河期といわれた」(同)ほど、安定雇用が実現している。

 雇用に詳しい日本総合研究所の山田久理事は人材流出を防ぎ、企業競争力を確保するには「若年層の離職率や失業率が低い日本型採用の良さを残しながら、一定割合で職種別採用を取り入れる仕組みが必要」と指摘。大学改革と連動したインターンシップの単位認定や、入社時期を遅らせて学業成績を採用決定にきちんと反映させたり、キャリアアップ期間に充てたりする制度づくりも提案する。

 「新卒一括採用-新入社員教育-賃金や昇格の年功序列-終身雇用」という、戦後の日本経済を支えてきた雇用制度見直しの議論が、大きく動き出した。(大塚昌吾)