ドイツ発のグループ購入保険「P2P」が脚光 インシュアテックの新潮流は日本にも
「高いもの」「たくさんのもの」を持っている、という幸福のモノサシは、一昔前のものになりつつある。モノを買い、所持することに興味のないミレニアルなどの新しい世代が購買層の中心部に食い込むとともに、日本でも徐々に浸透しつつある「シェアリングエコノミー」。民泊のAirbnbや各種カーシェアリングなど、頻繁に使わないものにお金をかけない傾向の高まりとともに、不特定多数の他人との「共有」をつなぐITとソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の充実に後押しされて急速に認知されている。
◆「保険をシェアする」保険
その「頻繁に使わないもの」の一つである「保険」をシェアするような仕組みの「P2P(ピア・ツー・ピア)保険」がドイツで生まれ、現在世界で30以上の会社から販売されている。
パイオニアは2010年創立の独フレンドシュアランス(現在加入者10万人以上)。保険会社ではなく、日本でいう「ほけんの窓口」のような、あくまで加入者と保険会社を独立した立場でつなぐ仲介業者で、フランスのAXAなど70以上の保険会社との協働で運営している。
同社を通じて保険を購入する利用者を、同じような保険を必要とする他の利用者とつないでグループにし、一つの保険を「共同購入」することを可能にする。
利用者が支払った掛け金はフレンドシュアランスのグループ口座にプールされ、保険金請求があった際はまずそこから支払われる。足りない場合は同社が保険会社に請求をし、年末に余っているプール金があれば最大50%が購入者にキャッシュバック(割戻し)される。
◆P2P保険のメリットとデメリット
元来コンサルタントや法律家など経歴の異なるフレンドシュアランスの4人の設立者が、「どうすれば掛け金を払うだけで保険料の請求をしない顧客がもう少し得をできるか」という疑問から想起したというP2P保険モデル。
利用者にとっての利点は大きく3点。第一に保険料を安く抑えられること。従来の保険モデルでは利用者の手元に戻る額は平均で支払われた保険料の30%程度だが、フレンドシュアランスでは現時点で利用者の80%がキャッシュバックを受けているという。第二に、請求と保険金受取の手続きが簡易で迅速になること。請求はオンライン、保険金支払いの判断はAIが行うので、最短数分で保険金の受け取りが可能になる。また、保険商品の透明性が圧倒的に向上することも指摘されている。
デメリットとしては、請求があった場合はどうしてもグループ内で不公平感が出ることなどがある。そしてもちろん利用者が支払う保険料は抑えられても、その中から保険会社とフレンドシュアランスの二社が利益を得ている。
◆保険会社にとってはどうか
保険会社にとっての最大のメリットは、利用者の他のグループメンバーに対する責任感から不要・不正な請求が減ること。そのモラルハザードへの対応のしやすさから、離婚・失業など今まで不可能と思われていた事象に対する保険商品の提供が期待されている。
また従来の保険システムでは保険会社が個別の請求をマンパワーをかけて精査していたところを、P2P保険ならばブローカーのAIが判定する。保険会社は確定した請求のみ馴染みのブローカーに対して支払えば完了になり、それによるコストダウンも見込まれる。
ちなみに、この記事を書くにあたって「単純計算として、加入者に『共同購入』などされたら保険商品の売上が下がるのでは? 保険レディーのノルマ達成はどうなるの」という素人丸出しの質問をした筆者に対応してくれたカスタマーサポートの社員は、「もちろんそのリスクはある。しかし利用者にとって保険商品一点あたりの価格が下がったことで、今まであまり加入されていなかった保険の商品も売れるようになっている」と説明してくれた。人間、安心にかけるお金はケチらないものなのかもしれない。
なお、おそらくドイツ人であろうその社員は、ノルマとともに会社や家にやってきて保険を無理やり売る保険レディーというものは見たことがないそうである。少々保険商品の契約数が落ちても困らない理由には、販売形態の違いもあるのだろう。
◆日本では法規制の壁が立ちはだかる
冒頭でも触れた通り、現在P2P保険を扱う企業は世界で30以上。中には1060万ドルの資金を調達している米シュアや、ソフトバンクとグーグルなどから1.2億ドルを調達した米レモネードなど、大成功を収めているケースも少なくない。
しかし、日本における本格的な導入には大きな壁がある。日本の金融庁がP2P保険のシステムを保険として認可していないのだ。
インシュアテックを専門とするスタートアップ企業のジャストインケースは今年2月、P2P型のスマホ保険をテストリリースしたが、「保険業法の適用除外規定」を利用した。保険業法では、ある一定の条件を満たすサービスは保険業法の適用範囲外とするという規定が定められており、その条件の1つが保険を提供するユーザーが1000人以下であるというものだ。
そのため、同社は先行サービスを事前登録者限定の招待制とし、保険を提供するユーザーの人数を1000人未満に抑えることでサービスを始めた。
ジャストインケースは「(P2P保険の認可については)金融庁と長丁場で議論を重ねていく」とし、将来的なP2P保険の販売を目標に据えながらも、今年7月にアプリベースでP2P保険を「疑似体験」できるスマホ保険を発売した。
同社は公式HPで「もともと保険は『人づきあい』的なもので、支え合いを目的とするものでした。私たちは、保険を再び『人づきあい』に戻したいのです」と、P2P保険のシステムの理念を語っている。
ただ、今後法整備が進む見通しは、全く不透明といってよさそうだ。加入者が手をつないで支え合うP2P保険が、法的な垣根を越えて日本にも根付く日は来るだろうか。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R))
《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。
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