【高論卓説】構想・企画・設計力の時代 行動できるリーダーますます必要
元本田技研工業の工学博士を主査として、鹿島平和研究所で今秋から始まったバーチャル・エンジニアリング研究会に参画する機会を得て改めて驚いている。「ものづくり」の常識が変わりつつあることはなんとなく理解していたが、ここまで変わってきているとは、というのが率直な実感だ。
私自身まだ消化不良な部分が多く、詳細を説明できる段階にはないのだが、単純化すれば、試作や検証などの作業が、ものすごい勢いでバーチャル化されてきているということだ。つまり試作などせずとも、コンピューター上で結果を試すことができ、そのデータが公式なものとして認定される世の中が始まっている。別の言葉で言えば、自動車のように部品点数が多いものについても、ほぼ完全に、「ものづくり=構想・企画・設計」に変わりつつある、ということだ。
ファブレス(工場を持たない)企業の代表として有名な米アップル、その成功などからよく言われることの多いスマイルカーブ、すなわち「ものづくり」のプロセスにおいて、上流(構想・企画・設計)と下流(アフターサービスやコンテンツ)の利益率が高く、その中間は低い(したがって外注することが多い)というセオリーについては、少し前からよく言われている。ついに、自動車のようにものづくりに「すり合わせ」が問われるとされてきた分野にも、時代の波が押し寄せてきていることをひしひしと感じる次第だ。
週末に見たTBS系日曜ドラマ「下町ロケット~ゴースト」でも、ファブレス企業(ただし「ものづくり」の精神は大切にしている)の「ギアゴースト」社が重要な存在として浮上してきたり、主人公が経営するバルブメーカーの佃製作所自身が、トランスミッション分野への展開を図ってみたりと、構想・企画・設計の時代の流れを感じさせる内容になっているが、もはや色々なところでこれは不可逆な現象なのであろう。
考えてみれば、私がかつて勤務していた霞が関の世界も、これまでは、官僚の強みと言えば、「ものづくり」風に、大変なプロセスを経て緻密な文章を築き上げ、法制局対応や国会対応を乗り切るところが肝であった。言うまでもないが、今後、このあたりの作業はAI(人工知能)などにとって代わられていく。
少子高齢化、地方の衰退、財政難など、まさに、国難とも言うべき状況下、上流部分とも言うべき官僚の構想力・企画力が問われる時代に入ってきているが、印象としては、現状の政策は、日本版○○といった横並び・模倣系のオンパレードという気がしないでもない。
先日、ある会合で将棋の田中寅彦九段と再会したが、おっしゃっていた内容で特に印象に残っているのは、「もはや、トップ棋士でもAIに勝てない時代となったが、将棋というゲームを構想し、普及させていくのは人間だ」というものだ。まさにスマイルカーブの両端であると言えよう。
最近では、子供向けに開発された「どうぶつ将棋」など、駒やマス目の数を大胆に減らし、駒の図柄も工夫して柔らかい印象を持たせ、さらに普及させる努力も実りつつあると聞く。
自ら問いを発し、考える基軸を有し、構想を打ち出して行動できるリーダー(始動者)がますます必要な時代になったことを痛感する。
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【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。
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