【高論卓説】「大学18年問題」大騒ぎの後で 少子化対策など自己改革進める契機に

 
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 教育関係者らが、声高に騒ぎ危機感をあおった「大学2018年問題」は、いったい何だったのだろうか。どうも杞憂(きゆう)であったかに映る。

 受験生人口が急激に減少し、多くの大学が入学者を確保できなくなるという警鐘に各大学は右往左往した。で、時代に対応できる新学部・新学科などを急いで設置したりもした。実際は、18歳人口は17年度に比べ18000人の減少にとどまり、大学進学率が過去最高の53.3%と伸びたため、18年問題は吹き飛んだ。

 日体大は新学部としてスポーツマネジメント学部を新設。経済、経営、商学部などへの進学希望者を取り込む策を講じた。文部科学省は入学定員の厳格化と新法によって東京23区内の大学に身動きできないように学部・学科の増設を禁じ、定員割れの大学を減らすべく手を打った。その策が功を奏し、入学定員未充足率が36%となり、前年比約4%も縮小した。

 おおむね地方の大学に御利益があり、文科省策は地方再生に寄与することとなった。しかし、入学定員の厳格化は、各大学が入学辞退者が出るたびに追加合格者を発表したがため、どの大学も新入生を確定できず、大きな混乱を招いた。文科省は若干の定員オーバーの大学に対し、補助金の減額を棚上げすると発表せざるを得なかった。けれども、学部・学科を増設しようとするならば、定員の厳格化を厳守しなければならないルールに変更はない。

 今年の文科省の学校基本調査の特徴は、大学に関しては、大学数(782校)、学生数、進学率、卒業者数、就職者数など、いずれも8年連続の上昇であったことだ。文科省の高等教育機関における調整が順調である証しである。

 注目すべきは、私大志願者数は前年比27.6万人も増加したこと。特に中規模大学以上の総合大学に人気がある。しかも私大学生数は214万人と過去最高を記録した。国立大(86校)は61万人、公立大(93校)15.5万人で、私大(603校)は73.7%を占める。

 政府は大学無償化の旗を降ろしていないが、授業料の高い私大を志願する受験生が増加傾向にある実情は、無償化は急がねばならない政策とは思えない。ただ、返済義務のある奨学金を受けている学生は、私大にも約4割いるだけに、難しい政治判断だろう。複数の子供が大学生である家族にすれば、負担の軽減を期待しているにちがいない。

 18年問題の警鐘は、文科省が高等教育機関の政策を遂行する上で追い風となった。大学も自己改革を進める理由にした。つまり、この問題提起は、大学改革の転換期を迎えているという合図となったといえる。その意味では、政府の教育再生実行会議と連動していたのである。

 学長選出方法、教授会のあり方など15年の学校教育法の改正は、大学のありようを一変させた。理事者側の責任を重視し、ガバナンス(統治)の徹底を説き、教授会の役割を明確にした。大学内に諸問題を抱えていても、解決して一丸となって進むようにもなった。法の改正も18年問題の提起でスムーズに運んだといえようか。

 「文科省が大学改革へ向けて提示する計画あるいは施策は、昨今、唐突とも思えるほど急激に進んでおり、大学関係者も戸惑いを隠せない」と、私大団体が嘆く。かつて文科省に籍を置いた私も同感である。高齢化、少子化時代を迎えて改革の必要性は認めるが、内閣・官邸主導の政策形成が大学無償化のごとく定着しつつある状況を憂う。

 文科省関係の審議会などで政策が生まれず、政府のイノベーション政策の一部として大学改革も位置づけられている印象を受ける。文科省が官邸の下請けの役所と映るのは残念だ。大学に関する専門家でない人たちによって、「補助金」という餌を横目に大学が踊らされる昨今だ。大騒ぎした18年問題は、大学よりも文科省の政策変更のシグナルだったといえそうだ。

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【プロフィル】松浪健四郎

 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。71歳。大阪府出身。