【高論卓説】「PC文化」アップルの訴え 「データ産業複合体」の弊害を警鐘

 
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 グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社は、その頭文字を取ってまとめ「GAFA(ガーファ)」と呼ばれることがある。いずれも米国企業で億単位のユーザーが利用するインターネット企業という側面を持っており、人々の暮らしの隅々まで支配する圧倒的な存在感を持つ会社である。

 ただし、4社ひとまとめのGAFAという表現は、アップル最高経営責任者(CEO)のティム・クック氏にとっては納得いかないだろう。

 クック氏は、グーグルやフェイスブックがネット利用者の個人情報を「利益を増大させるための武器」として利用していると批判。「国民のプライバシーを保護する包括的な法体系が必要」と訴えているのだ。

 今月25日にベルギーのブリュッセルで開かれたプライバシーに関するカンファレンスに出席したクック氏は、個人データを利益増大のための武器にしている企業を「data-industrial complex(データ産業複合体)」と命名した。その上で、「データが軍隊並みの効率で兵器になっている」と、かなり強い言葉を使って批判した。

 今年5月にEU(欧州連合)は、GDPR(一般データ保護規則)を発効させている。これによってEU域内で活動する企業は、個人データの収集についてユーザーの了解を得ることが必要になったが、米国に同じような規則はない。

 そこで、クック氏はEUと同様の法整備を米国をはじめとする各国が行うべきだと主張している。なぜクック氏は、このような主張をしているのだろうか。

 その根本的な理由は、アップルの企業文化がグーグルやフェイスブックとは全く異なっている点にある。アップルはGAFAの中では、唯一の「老舗」。創業は1976年であり、そもそも「ネット文化」ではなく、「パーソナルコンピューター(PC)文化」をつくり出した企業だ。

 ネット文化とPC文化は全く異なるものである。PC文化は、個人の手元にコンピューターを置き、それまであった中央集権的な大型コンピューターによる支配から脱却しようというもの。目標は「IBMのような大企業支配からの脱却」であり、「個人の自主性」だった。

 それに対してグーグルのようなネット文化の企業が戦う相手はIBMではない。多くの人々は「プライバシーよりも、利便性と安さの方を選択する」というのが彼らの主張。個人データの利用を制限することは、イノベーションの妨げになると考えている。

 政府による検閲の怖さ、公権力から個人のプライバシーを守ることの重要性を知っている人たちは、当然のことながらクック氏の主張を支持している。

 しかし、世界中の多数派は、ネット上に自分のプライバシーをさらすことを怖いものとは感じていない。先進国限定だったPC文化と異なり、ネット文化は世界規模に広がっており、「利便性と安さ」を大事にする層は分厚いのだ。

 クック氏がデータ産業複合体という言葉を選んだ理由は、61年に当時のアイゼンハワー米大統領が「Military-industrial complex(軍産業複合体)」の弊害について警鐘を鳴らしたことを意識しているに違いない。警鐘もむなしく、米国の軍産業複合体はその後、ますます力をつけた。データ産業複合体はどのような運命をたどるのだろうか。

【プロフィル】山田俊浩

 やまだ・としひろ 早大政経卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。週刊東洋経済の編集者、IT・ネット関連の記者を経て2013年10月からニュース編集長。14年7月から東洋経済オンライン編集長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)。