【高論卓説】中小企業における特許活動 積極的な権利行使で競争力強化
TBSで下町ロケットのシーズン2が放映されている。下町ロケットでは、中小企業における特許戦略にフォーカスが当てられている。いうまでもなく中小企業において特許戦略は重要だが、その特許戦略を支える日々の特許活動、すなわち、個々の特許の取り方や、取得した権利を行使することも重要である。
まず、特許と自社製品はイコールではなく、自社製品をできるだけ抽象化した形で特許を取得することが望ましい。もっとも、発明が特許されるには公知技術と比較して新規性や進歩性が必要とされることから、自由に抽象化できるものではないが、できるだけ抽象化するのが基本だ。
そして、もう一つ、競合がどのように回避してくるかという視点も持ってほしい。要するに、その発明の何がポイントなのかを考えてほしいということだ。特許権侵害訴訟の場面では、せっかく抽象化した発明が限定的に解釈されることがあり得る。もちろん、訴訟にならない交渉の場面でも同様だ。例えば、「ネジ」を実施例として、「ネジ」を抽象化した「固定具」という特許を取得したとする。しかし、「ネジ」のみを実施例として挙げていた場合、せっかく抽象化した「固定具」という概念が「ネジ」に限定されてしまうことがある。
そこで、2つの材料を固定するための部材であることに特徴があるのだから、その部材は「くぎ」でもいいし、「接着剤」でもいいかもしれないという視点を持つことが重要だ。この視点を実施例に反映することで内容的にも広い権利を取得することができる。
次に、権利行使に関して、日本の企業は紛争を好まない。日本における特許権侵害訴訟の件数は、年間約200件程度で、米国の約10分の1であり、中国の約20分の1である。理由はいろいろと述べられているし、私は、この件数自体が増えることがよいことだとは思わない。しかし、特に中小企業は、せっかく取得した権利を積極的に活用するということをもう少し意識した方がよい。
なぜならば、紛争の経験がその会社の知財力を育てるからだ。別に訴訟に限った話ではなく、交渉であってもよい。特許の紛争の場面において何が問題となるかということを肌で実感できれば、その後の特許の取り方も変わってくるし、ひいてはその後の特許戦略も変わってくるからだ。もちろん、いたずらに紛争をあおるわけではない。私が述べているのは正当な権利行使だ。
これに対して、「権利侵害している製品を発見した場合に、これをみすみす逃す経営者なんていない。正当な権利行使をするに決まっている」といわれるかもしれない。しかし、権利侵害しているかどうかの積極的な確認にも時間を割くべきである。
そうすることで、他社の動向をつかむことができ、特許活動にフィードバックすることができる。仮に特許を回避されていれば、なぜ特許を回避されたのか、回避されないようにするにはどうすればよいのかということをまさに肌で感じることができる。
中小企業では、しっかりとした技術力があっても、コストや人員の問題などで、的確な特許活動を行っている企業は少ないと思う。外部専門家もうまく使いながら、より競争力を身につけてほしい。
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【プロフィル】溝田宗司
みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。17年に溝田・関法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。大阪府出身。
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