GDP22兆円喪失も 中小企業庁などが初のイベント開催、事業承継の重要性・危機感強調

 
全国事業承継推進会議で、体験談を語る家業を継いだ経営者ら=10月29日、東京都港区

 中小企業庁など5団体は、事業承継をテーマにした初のイベント「全国事業承継推進会議」を都内で開催した。中小企業経営者やその後継者、行政、支援機関などが一堂に会し、事業承継の重要性の認識を深めた。この日はキックオフイベントで、来年1~3月をめどに、北海道や東北、関東、九州など全国8ブロックで支援機関と連携しながら、事業者や後継者の意識改革の会議を開く。

 磯崎仁彦経済産業副大臣は「後継者不足問題は国家的な課題」と危機感を表明。「切れ目のない支援を行うので活用してほしい」と話した。日本商工会議所青年部の内田茂伸会長は「今こそ青年経営者が事業発展に向けて行動すべきだ」と決意表明した。

 GDP22兆円喪失も

 中小企業庁によると、2025年までに70歳を超える中小の経営者は245万人で、約半数の127万人は後継者が未定という深刻な事態。これを10年放置すると廃業が進み、約650万人の雇用、22兆円の国内総生産(GDP)が失われると試算している。

 いわば「待ったなしの状況」で、政府は25年までに集中的な支援により黒字でも廃業という事例を回避したい考えだ。

 企業買収をテーマにした小説「ハゲタカ」の作者、作家の真山仁氏は基調講演で「政府や金融機関はスタートアップベンチャーには手厚いが、既存の中小企業の新事業を支援すべきだ」と政府関係者に苦言を呈した。

 政府は支援策の一環で、今年4月に事業承継税制の大幅緩和に踏み切った。10年間の時限措置として、株式の譲渡や相続に関する税金が全額猶予される。宮沢洋一・自民党税制調査会長は「10年後に厳しい税制に戻る前に人工知能(AI)などを使い、新時代に沿ったビジネスモデルを作ってほしい」と若手経営者らにエールを送った。

 また「『今、継ぐ』大切さ~私はこうやって継ぎました~」と題し、笛木醤油(埼玉県川島町)の笛木正司社長や製麺業の出雲たかはし(島根県雲南市)の高橋大輔社長らが経験談を語った。先代が急死したり、存命でもなかなか意思疎通を図れないこともあったりし、「先代とビジョンを共有するなどコミュニケーションは重要だ」と振り返った。

 経営者には助け必要

 トークセッションでは、家業を継いだ若手後継者が新たな事業を起こす「アトツギ」ベンチャーを支援する、一般社団法人ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事らが登壇した。

 ミツフジ(京都府精華町)の三寺歩社長は、お金がないと言われ大手企業を辞めて家業を手伝うと決意したが、先代と意見が合わず会社を乗っ取りますと宣言した経緯を、ユーモアあふれるエピソードを交えながら話した。世界最強の糸という家業の経営資源を生かし、健康管理ができるウエアラブルIoT(モノのインターネット)製品で売り上げを伸ばす。

 大都(大阪市生野区)の山田岳人社長は「娘と結婚するなら会社も継いでほしい」と言われ金物・工具問屋の家業を継いだが、“問屋業は勝てないルール”で構造不況に。従業員を全員解雇する苦難を味わうが、DIYネット販売へと業態転換した。ネットと長年築き上げた仕入れ先の太いパイプを掛け合わせたことが成功の秘訣(ひけつ)という。

 山野氏は、関西の大学で実家が自営業の学生だけを集めたゼミも実施する。ミツフジの三寺社長は「経営者は独りぼっち、心細いときに助けが必要」と山野氏と意気投合し、参加した。山野氏は「地方のアトツギの意識が変われば日本経済に地殻変動が起こるはず」と締めくくった。