任天堂 赤字転落でも余裕で復活するワケ

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 経済ニュースの本質を見極めるにはどうすればいいか。役立つのが「会計」だ。会計ではモノの動きと時間の流れを「金額」で整理していく。それが理解できると「ウラの裏」がするすると見えてくる。雑誌「プレジデント」(2018年3月19日号)の特集「会社の数字、お金のカラクリ」から、記事の一部を紹介しよう。今回は「任天堂とBS経営」について--。

自己資本比率85.2%”ニンテンドースイッチ”快進撃続く

 2017年3月に発売のゲーム機「ニンテンドースイッチ」が快進撃を続けている。17年12月末時点での販売台数は1486万台。06年12月に発売し、1年で2013万台の大ヒットを飛ばした「Wii」に迫る勢いだ。

 「任天堂の業績はヒット商品が出て拡大しては縮小の繰り返しです。ゲーム事業の宿命で、ヒットがあるかないかで業績が大きく変動する。それでもビジネスを継続できるのは、強靭な財務体質があるからです」

 と解説するのは中京大学経営学部教授の矢部謙介さん。

 企業向け財務コンサルタントの石野雄一さんは「任天堂の特徴はPL(損益計算書)よりもBS(貸借対照表)に色濃く出ます」と強調する。

 「世の中の経営者はまだ、売り上げ拡大とコスト削減を主軸とするPL的発想が強いのですが、これは業績が右肩上がりの時代の産物。生産性や効率が重視される現在は、どう資金を調達してそれをどう運用しているかを示すBSで捉えるべきです」

 では任天堂のBSから見えてくる財務体質の特徴は何か。第一は「キャッシュリッチで無借金」という点だ。保有する資産の中で、現預金や有価証券などで構成される流動資産が77.7%を占める。そうして調達した資本のうち返済義務のない自己資本比率も85.2%と極めて高い。一般に自己資本比率が40%以上の企業は健全といわれるが、任天堂はそのラインをはるかに越えたレベルだといえる。

 「ゲームソフトの開発費用は開発時に計上されるので、売れれば売れるほどトータルの営業利益率は上がっていきます。ゲーム機のほうも、任天堂は部品のセンサーやチップが最先端のものではなく、すでに世の中に出回っている部品を用いてうまく組み合わせているので、製造コストを抑えることができています」(矢部さん)

 かように多額のキャッシュを持ち続けるのが「任天堂流BS経営」だと石野さんは言う。

3期連続営業赤字でも年500億研究開発費削らず

 BSでもう1つ注目されるのが、土地、建物、機械設備などで構成される有形固定資産の比率が全資産の5.8%強と驚くほど小さいことだ。

 「有形固定資産の少なさから自社工場を持たず生産を外注する『持たざる経営』だと読み取れます。有形固定資産が少なければ、業績変動があっても柔軟に対応できます」(石野さん)

 たとえ続けてヒットが出なくてもそれに耐えられるだけの財務体質であるとわかる。

 実際、Wiiの稼ぎがピークとなった09年3月期は売上高が1兆8000億円を超えたが、翌年から下がり始め、17年3月期は5000億円を割っている。

 12年発売の「Wii U」の累計販売台数がWiiの7分の1と不発。そのため12年から14年3月期は営業利益が赤字に転落する冬の時代だった。それがスイッチで息を吹き返し、今期営業利益は前年比5.4倍の1600億円を見込む。

 スイッチで業績は上向くだろうがこれもまた永続的ではない。

 楽天証券経済研究所のアナリスト、今中能夫さんは「大ヒットしたWiiでも、お客さんもソフトメーカーも飽きてしまうので、市場の拡大期3年間、縮小期5年間の8年間のライフサイクルでした」と説明する。

 ヒット商品の創出を下支えするのは500億円以上の水準で維持される研究開発費だ。これを売り上げに左右されず捻出できるのは莫大な手元資金があってこそ。「だから冒険もできる」と今中さんは続ける。

 「Wii発売の2年目に『Wii Fit』というゲームなのかフィットネスなのかわからないユニークなソフトが出て大ヒットしました。スイッチでも『ニンテンドーラボ』という伝統的なおもちゃの世界とテレビゲームを融合したようなソフトが出る予定です」

 高い利益率から積み上がった豊富な手元資金は、売り上げ不振の間も研究開発を続ける原資となり、やがて今までにないゲームを生み出す。それがヒットすればまたキャッシュを積み上げることになり、次のヒットまでをつなぐ資金となるのだ。

 矢部謙介

 中京大学経営学部教授

 石野雄一

 財務戦略コンサルタント

 今中能夫

 楽天証券経済研究所 アナリスト

 (Top Communication 写真=Getty Images)