【高論卓説】台湾で相次ぐ「日本製」のトラブル 信頼にひび、重要拠点失う恐れも
台湾で死者・負傷者200人以上を出した台湾鉄道の脱線事故。日本でも連日テレビニュースのトップで報じられるなど注目を集めた。今も台湾で原因究明の作業が続いている。この「プユマ号」の愛称で呼ばれてきた特急の事故車両は、日本企業の製造であった。台湾は日本製に対する信頼度が高い土地。日本の製造業の重要な販売拠点で「メード・イン・ジャパン」の信頼にもひびが入る恐れもある。(ジャーナリスト・野嶋剛)
「プユマ号」は主に台湾東部路線の振興のために2013年から導入された新型車両。JR東海の子会社である「日本車両製造」(名古屋市)が受注。契約額は300億円に達し、日本の鉄道海外輸出のモデルケースでもあった。
この事故では、車両の不調による運行の遅れを取り戻すため、運転士が、速度制御の安全装置・ATP(自動列車防護装置)を切ったまま、規定の倍以上のスピードで事故現場のカーブに突っ込んでいった。一義的にはヒューマンエラーが起こした事故なのだが、ATPの切断が、なぜか指令センターに伝わっていなかったという「謎」が残された。
その後の調査で判明したのは、台湾鉄道にはATPの切断を管制センターに自動通報されるシステムがあったが、事故車両を含めたプユマ号だけは自動通報ができていなかった、ということだった。そして、事故から約10日後、日本車両製造は自らの設計ミスで自動通報を装備できていなかったと発表した。
常識では考えられない凡ミスである。もちろん事故の直接原因は前述のように運転士の操作ミスにあるが、遠因として設計ミスが影響した点は否定できない。
台湾での報道によると、日本車両製造は当初、納入した車両のチェックの義務は台湾側にあり、修理などは対応しないと表明したとされる。台湾鉄道側が「訴訟を辞さない」と態度を硬化させると、日本車両製造は折れたようで、ATPに問題がある全車両の修理に応じると態度を改めた。台湾鉄道側も、納入時に点検を怠った瑕疵(かし)があり、恐らくはこのあたりを落とし所として、事態は収束していくに違いない。
ただ、心配されるのは、この事故を通して台湾社会に「日本製」への不安が広がることである。たまたま、列車事故直前には日本のメーカーによるデータ改竄(かいざん)が明らかになったビルの免震装置が台湾に輸出されていたことが話題になったばかり。
今や海外にいけば韓国のサムスン電子や中国のハイアール、携帯大手のOPPO(オッポ)の広告ばかりが目につく。ただ、台湾ではテレビCMで日本製クーラーなど家電や自動車、化粧品が多く放送され、日本勢の頑張りがまだまだ感じられる。製造業が危機に瀕(ひん)しているとされる日本メーカーへの信頼が、なお厚いところだけに、鉄道車両という人命に関わる重要な輸出品にクリティカル(危機的)な製造ミスが起きたことは残念なことであり、その後の対応も含めて、日本車両製造には全日本製品への影響が起きかねない事態であることをしっかりと受け止めてもらいたい。
タイミングが悪いことに、今月24日に投開票される台湾統一地方選では、福島県など原発事故周辺5県の食品について、台湾が輸出規制を解禁すべきかどうかを問う住民投票が行われる。これもまた「日本製」の話であり、「不良品や二級品を台湾に売りつけている」というイメージが投票への悪影響を与えないか、心配する声も上がっている。
◇
【プロフィル】野嶋剛
のじま・つよし ジャーナリスト。朝日新聞で中華圏・アジア報道に長年従事し、シンガポール支局長、台北支局長、中文網編集長などを務め、2016年からフリーに。『ふたつの故宮博物院』『銀輪の巨人 GIANT』『台湾とは何か』など著書多数。最新刊に『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』。
関連記事