【中小企業へのエール】AIで無くなる仕事、無くならない仕事 人工知能と職業の関係
人々の暮らしや生活を支える技術の進歩は著しく、中でも人工知能(AI)の進化にはめざましいものがある。既に多くの分野で実用化が進み、暮らしにも取り入れられている。(旭川大学客員教授・増山壽一)
人間はAIのメリットを享受する一方、その進化に伴い、職業を取って代わられるのでは、無くなる職業も多いのでは、と心配する話もよく聞く。
筆者はAI関連企業の顧問を務めている。同社は主にAIを画像認識に利用し、瞬時の解析技術で危険回避や毀損(きそん)個所の分析などを行う。鉄道や物流、上下水道などのインフラ業界での利用が急速に進む。画像認識はAIの得意分野。ほかにも銀行の窓口審査業務の代替や農業など、今まさに多様な分野に展開している。
「AI化が進むと、無くなる職業が多い」という話だが、一業種の職業というくくり全てが、一気に無くなるわけでもないかもしれない。
例えば、銀行の支店が急速に少なくなっている。預貯金や口座振替などの窓口業務は、既にインターネット経由が主流。融資相談や保険販売などは店舗に行き、対面のやり取りが求められるのでは、と思っていたが、AIに委ねる方向にある。
ただ支店には、地域のことを知りつくしたベテラン職員がたくさんいる。その人たちを活用し、今までにないAIにもできない顧客サービスの提供が求められる場面は必ずあるはずだ。
最終的に残るのは、顧客と温かみのある会話や冗談を交わせる関係が必要な仕事、あるいは失敗したら素直に謝り、努力することで信頼を勝ち取る仕事-といったビジネスだろう。
そんなことを考えながら、服を修理するために事務所近くの洋服屋に行った。そこのおばさんは「お久しぶりね、お子さんはもう大きくなったわね」と明るく世間話をしながら、修理個所を素早く見つけると、ものの小一時間で直してしまった。
こんな店は絶対に無くならないし、無くなっては困る、と心底思った。そんな店がどれくらいあるかも心配だが…。
「働き方改革」で生産性を上げようというのが現下の日本の課題。AI化で職業のスタイルが変化し、生産性も上げることはできるだろうが、「生産性は、数字だけに表れるものでもない」ということもしっかり認識しなければならない。(次回から隔週水曜日掲載)
◇
【プロフィル】増山壽一
ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。17年4月から旭川大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。56歳。
関連記事