地域全体で「一つの宿」に 分散型ホテル、空き家解消や地域活性化の切り札に
地域全体を一つの宿に見立てる「分散型ホテル」が注目を集めている。点在する空き家や歴史的建造物などをリノベーションして宿泊施設とし、食事や買い物は地元住民が利用する店舗を利用してもらい、地域全体で観光客をもてなすイタリア発祥の事業モデルだ。関西でもこうした取り組みが増えつつあり、空き家の解消と地方観光の起爆剤の一石二鳥との期待も高まっている。(田村慶子)
黒豆や栗、丹波焼などの名産品を誇る兵庫県篠山市。城下町があり、江戸時代は京都へ向かう交通の要衝として栄えたが、近年は過疎化に悩まされている。
そんな篠山市福住に10月3日、古民家の風情を残して改修した「福住宿場町ホテル NIPPONIA(ニッポニア)」が開業した。6月施行の改正旅館業法に基づき、地域に散らばった建物でも一つのホテルとして営業許可を得られる「分散型ホテル」として一体的に運営する計画だ。
古民家再生を手がけるNOTE(ノオト、兵庫県篠山市)と、ホテル運営のバリューマネジメント(大阪市)が、2020年までに同地区でさらに3軒を開業させる。歴史的な町並みや文化を体験できる「古民家ホテル」を打ち出す狙いだ。ノオトの藤原岳史社長は「歴史的な建物を宿泊施設などに活用することで、観光や雇用の創出につながる」と自信を込める。
ノオトは11月1日にも、新たに奈良市内の元酒蔵をホテルに再生した。すでに兵庫県の朝来市や豊岡市などで計20棟53室と展開を広げている。
分散型ホテルは1980年代初頭、イタリアで提唱された「アルベルゴ・ディフーゾ」という取り組みが原型。集落の中心に受付を担う管理棟を置き、点在する空き家をホテルに改修。施設内でサービスを完結させる一般のホテルと異なり、住民が普段通うレストランやバー、商店などを体験してもらうことで、地域一帯で観光客をもてなすのが特徴だ。現在はスイスやクロアチアなど欧州各地にも広がっている。
ほかにも関西では京都初の分散型ホテル「ENSO ANGO(エンソウ アンゴ)」も10月15日に誕生。建築デザイナーやアート作家が手を組み、中心市街地の徒歩圏内にある麩屋町通、富小路通、大和大路通沿いに計5棟229室を新築した。
ある棟にはバー、ある棟には茶室やフィットネスジムと付帯施設や内装に特色を出し、5棟が互いに機能を補完。宿泊客は付帯施設を相互利用できるようにした。客がホテルの外へ出て町めぐりをすることで、おのずと地域の商店や住民との交流が生まれることを狙っている。
運営するアンゴホテルズ(京都市)の十枝(とえだ)裕美子社長は「来年中にはさらに京都市内で増やす」として、5棟の近隣に複数棟を開業させる方針を明らかにした。客室数は現状の229室から倍増させる計画だ。
このビジネスモデルは開業時に巨額の投資をするというより、段階的気に資本を投下できる便利さもある、アンゴホテルズは京都でブランドを確立したうえで関東圏など国内での出店を広げ、23年には欧州などを視野に海外進出も狙う。
分散型ホテルは発祥地の欧州になじみがあり、長期滞在型で高単価を狙える欧州客を呼び込む受け皿になる期待も高い。ノオトが手がける篠山市福住の宿泊施設には、欧州客に人気のある野草の酵素を生かしたボディケアの店舗を併設。アンゴホテルズも京都市内で追加出店するホテルに「スパ施設を検討している」(十枝社長)という。
一方、岡山県矢掛町にある古民家を再生した、シャンテが運営する宿泊施設「矢掛屋」と周辺の施設が今年6月、イタリアの団体「アルベルゴ・ディフーゾ協会」から国内で初めて分散型ホテルの認定を受けた。
また、滋賀県大津市は江戸時代に宿場町として栄えた地に国内外の観光客を呼び込む「大津宿場町構想」を進めており、関連事業として、木造注文住宅を手がける地元の工務店が事業主となって計7軒の古民家をホテルに改修、プレオープンの4月から営業を始めている。
既存の建物を活用する「分散型ホテル」。新しい地域の活性化策として、今後も広がりを見せそうだ。
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