【千葉発 輝く】横綱と交流、生まれたスープ ミートボールの石井食品、無添加調理で素材の味
寒い冬が到来した。あったかい鍋の季節だ。石井食品八千代工場(千葉県八千代市)では「昭和の大横綱」とたたえられた「大鵬直伝ちゃんこ鍋スープ」の製造が進む。
商品価値創造部の坂本陽一郎氏(44)は、「開発担当の社員が相撲部屋に通って習った本格的なちゃんこ鍋スープ。味のポイントは新鮮な鶏ガラで、添加物は一切、使っていない」と笑顔で語る。
大鵬関と石井食品は昭和30年代から交流があった。その縁で石井食品と大鵬企画(東京都江東区)がちゃんこ鍋スープを共同開発したという。
坂本氏は「食通や野菜嫌いの子供も満足する自信作。寒い冬の夜、家族や友人とあったかい鍋を囲み、味わってほしい」と話す。
地域の農家とともに
石井食品は戦後、千葉県船橋市でつくだ煮の製造を開始。その後、調理済みハンバーグやミートボールを販売し、社業を拡大していった。佐賀県と京都府にも工場を建設。また、2次元データコードと品質保証番号を組み合わせた原材料履歴管理システムを導入している。
地域の農家とのつながりを大切にする。そうして生まれたヒット商品の一つが「栗ごはん」だ。茨城、埼玉、千葉、京都、熊本県産などの栗を仕入れ、加工する。
鈴木貴士氏(52)は仕入れを担当している。「栗はそれぞれの生産地で特長がある。風味、甘み、食感が違う。おいしい産地の情報を入手。現地に通い、一番いい時期に仕入れる」と説明する。
茨城の栗は甘みが強く、ほくほくした食感。埼玉の栗は大粒でねっとりした食感が特長だ。千葉の栗は甘み、風味、食感ともにバランスが良いという。各地域の栗を新米で炊き込み、味比べをするのも一興だ。
栗は機械で堅い皮をむく。その後、残った堅い皮と薄皮を手作業で丁寧にむいていく。
松澤祐輝氏(37)は「栗は自然の恵み。大きさや形状が一個ずつ異なる。機械で皮全てをむくことはできない」と説明。「着色料は一切、使っていない。栗本来の素朴な色です。食感も良く、雑味がしない」と強調する。
おせちへの配慮
日本の各地域にはおいしく、伝統的な食材がある。社員が生産地に赴き、丹精込めて作った食材を仕入れる。無添加調理の技術で素材の味を生かした商品に仕上げるという。
茨城県・筑波山麓のタマネギを使ったハンバーグや、千葉県大多喜町のタケノコを使ったまぜごはんの素などを開発した。
正月の食卓を彩るおせち料理にも力を注ぐ。豊かな大地と海を誇る千葉県などの産地から伊勢エビやタコ、サトイモなどの素材を選ぶ。徹底した衛生管理と温度管理の下で製造する。工程は非常に難しく、同じ価値観を持つパートナー企業とともに研究を重ねているという。
また、自然の恵みを最大限引き出すために自社でだしを取る。鰹だしはまろやかな香りで、うま味が強い「鹿児島県枕崎産本枯節」を使う。
「食物アレルギー配慮おせち」は特定原材料7品目(卵、乳、そばなど)を使用しない。
家族や親戚が集まる正月に「食物アレルギーのある子供や孫も一緒におせち料理を食べたい」という消費者の声を生かして開発した。
石井食品は「地球にやさしく、おいしさと安全の一体化を図り、お客さま満足に全力を傾ける」という企業理念を高々と掲げ、社員が実践を目指している。(塩塚保)
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【会社概要】石井食品
▽本社=千葉県船橋市本町2-7-17
▽設立=1945年
▽資本金=9億1960万円
▽代表者=石井智康・代表取締役社長
▽従業員=312人
▽売上高=103億8787万円(2018年3月期)
▽事業内容=加工食品の製造・販売、商品開発
□石井健太郎会長
■ちゃんこスープ生んだ大鵬関との交流
--創業当時の状況は
「創業期は戦後の食糧難の時代だった。千葉県の船橋沖で取れた海産物のつくだ煮を作って販売した。当時つくだ煮は量り売りが主流だったが、小袋に入れて販売したところ農繁期にものすごく売れるようになった」
--昭和30年代、大鵬関との出会いがあった
「大鵬関は、私と同世代で10代のころ船橋市の病院に入院した。おなかをすかせて工場の食堂に来て食事をするようになり、家族や従業員と親しくなった。きさくな人柄で、横綱になってからも交流が続いた。大鵬親方は食にこだわった。ちゃんこは鶏ガラスープに、鶏肉とたっぷりの野菜。キャベツの芯も鍋に入れる。無駄がなく、おいしい。この縁が『大鵬直伝ちゃんこ鍋スープ』の開発につながった」
--米国に留学した
「カリフォルニア大学で食品加工などを学び、米国の食文化を体験した。帰国後、商品開発に役立った」
--人気商品のミートボール開発に携わった
「米国でミートボール製造機を購入。弁当のおかずとして売り出した。母親層を中心に支持された。スーパーでばんばん売れるようになった。箱根の山を越えて、関西に乗り込み、市場を開拓していった」
--食品添加物を使用しない決断を下した
「人工甘味料、保存料、着色料は不自然だ。人間によくない。使用しないと決意して、徐々に進めていった。また、全商品に番号を印刷して、素材の履歴を分かるようにした」
--社員が幸せそうに働いている印象がある
「『人がいい会社だね』とよくいわれる。職場環境には気を配っている。上司は肩書でなく、さん付けで呼ぶ。その日、もうけるだけではだめ。仕事を自分の成長につなげていくことが大切だ」
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【プロフィル】石井健太郎
いしい・けんたろう 米カリフォルニア大卒。1966年石井食品に入社。弁当のおかずとして好評のミートボールなどの開発・販売に携わる。88年社長、2008年から会長。78歳。千葉県出身。
■ □ ■
≪イチ押し!≫
■国産鶏肉と専用パン粉で「定番」の味
「ミートボール」は石井食品の大ヒット商品。弁当の定番として人気が高い。
商品価値創造部の関口和成氏(48)は「鶏肉は岩手、佐賀、宮崎県などの国産。タマネギは北海道や千葉、茨城県産など旬のものを使用。パリっとした食感を大切にしている」と説明する。
パン粉は石井食品専用。トマト風味のソースで仕上げており、ご飯が進む。野菜炒めやパスタにのせてもおいしい。子供たちが大好きな味だ。
関口氏は「私もミートボールを食べて育った。弁当の蓋を開けたときに丸いミートボールがあると、うれしかった」と笑顔で振り返る。
人工甘味料などは使用していない。関口さんは「素材のおいしさをお客さまに届ける。この味を後世に伝えていきたい」と意気込む。販売価格129円。
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