出願初期費用ゼロ、特許身近に パテンション、「埋もれた発明」発掘ねらう
発明を権利化するために特許庁への出願手続きを代行する弁理士。しかし、最終的に特許権を得るまでに約100万円必要で、取得できなかったとしても手数料や印紙代として、50万~60万円支払わなければならないケースもある。特許出願は費用の問題で中小事業者にとって敷居の高い存在だ。パテンションの神谷広子社長は、知的財産の権利化をより身近にするための新しいビジネスモデルで起業した。
画期的な買い戻し式
同社は特許出願手続きを依頼したときの着手金と取得できなかった場合の手数料がともに“無料”というこれまでにない画期的な仕組みを構築した。
まず、特許出願を希望する人は、買い戻すことができる条件付きで権利をパテンションに譲渡する契約を結ぶ。同社は弁理士に出願手続きを依頼。弁理士は、過去の事例などを調べて、特許取得の可能性が高くなるよう申請書類を作成する。この際、調査費用8万円だけは経費として支払う必要がある。特許庁に出願後、約10カ月の審査期間を経て可否が決まる。
特許を取得できて内容に満足した場合には、買い戻すことができる。取得できなかった場合や事業化に結びつきにくい内容になってしまったといった理由で気に入らなかったときは、買い取らずに、そのまま譲渡すれば費用はかからない。
パテンションは、譲渡された権利を必要とする法人・個人に転売する。権利を売買する形を取ったのは、特許取得に多額の費用がかかることで中小・ベンチャー事業者が出願に二の足を踏んでいることを知ったからだ。
神谷社長は「日の目を見ない発明が、少しでも多く世の中に出るきっかけにしたい」と初期費用をゼロにすることで、出願をしやすくした。報酬体系も分かりやすく定額制にしている。
会社を設立したのは、顧客の知的財産を特許事務所が売買対象とすることは、規制によって難しいためだ。
弁理士の注目高まる
実は、夫の神谷径氏は弁理士として開業している。神谷社長は大阪のかつお節問屋に生まれた。大学卒業後、法律事務所で事務職に就いた後に結婚。以降14年間、3人の子育てをしながら専業主婦として家庭を守ってきた。その間、夫の仕事を傍らで見ていて「特許出願は、取得できなくても費用がかかり、敷居が高い。もっと気軽に出願できれば、埋もれている発明が世に出てくるのではないか」と、特許出願手続きの実態に疑問を感じるようになる。
家業を継ぐことがないまま、父親が2012年に他界したこともきっかけとなって、弁理士や特許をめぐる問題点を解決しようと起業を志し、今年4月にパテンションを設立した。
9月から本格的に業務を始めたばかりだが、権利を売買するという過去に例がないビジネスモデルのため、まだ取り扱い実績はない。このため、今は中小ベンチャー事業者が集まるビジネス交流会などで根気強く、認知度向上に努めている。
弁理士登録数は増加傾向にあるが、特許や実用新案の出願件数は減少している。過当競争の中、仕事を獲得するためにも、潜在顧客を掘り起こせる同社のビジネスモデルは弁理士の間で徐々に注目を浴び、既に数社の特許事務所から提携に前向きな反応を得ている。
「依頼者と弁理士の双方にとって、ウィンウィン(相互利益)のビジネスモデルで、特許を身近なものにしたい」と知財ビジネスの活性化を目指す。
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【プロフィル】神谷広子
かみたに・ひろこ 同志社大経済卒。2000年法律事務所入所。18年4月パテンションを設立し、現職。41歳。大阪府出身。
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【会社概要】パテンション
▽本社=東京都墨田区京島2-2-11
▽設立=2018年4月
▽資本金=200万円
▽事業内容=知的財産の売買
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