【ゴーン事件を聞く】(上)「少数株主が受益者」徹底を
日産自動車の前代表取締役会長、カルロス・ゴーン容疑者が逮捕され、世界に波紋を広げている。日本を代表する企業でコーポレートガバナンス(企業統治)が機能せず、トップの暴走に至ったのはなぜか。日産をめぐる問題点や今後の焦点など、識者に見方を聞いた。
□冨山和彦・経営共創基盤CEOに聞く
--日産のガバナンスの一番の問題点は何か
「すべてをカルロス・ゴーン氏に依存するガバナンス構造であり、それで日産側のガバナンスを論ずるのはナンセンスだ。ゴーン氏という経営上の最高権者を本来監督するのがガバナンスだが、監督する取締役を大株主の仏ルノーの最高経営責任者としてゴーン氏が選んでいる。要は自分で自分を監督する人を監督する終身独裁官みたいな構造になっていた」
ガバナンス機能せず
--経営トップの暴走を阻止する仕組みがなかった
「自動車メーカーのようにグローバルで激しい競争をしているところでは強烈なアクセルを踏める権力者をつくることは大事だ。だからこそ、強いブレーキを踏んで権力者を統制できるようにするのがガバナンスの役割。日産の取締役会は事実上トップの選解任権を持っていなかったが、それではガバナンスにならない。選解任権を持つことがガバナンスが機能する絶対条件だ」
--ルノーと日産の関係も問題の要因か
「資本の論理で大株主のルノーの言うことを日産が聞くのは当たり前というのがあるが、ガバナンス論では根本的に間違っている。上場企業における世界標準の考え方では、ガバナンスの第一の受益者は大株主ではなく一般少数株主だ。日産がルノーに言われて効率の良くない工場で車をつくったりすれば、ルノーは日産の一般株主に訴えられる危険性もある」
「逆にいうと、ガバナンス上はルノーの優先順位は低い。それなのに高くなっていたことを何も疑問に思わないのは、日本が資本主義国家として“後進国”だということ。いろいろな意味で見直す良いチャンスだ」
原理原則議論せよ
--実質的な親子関係にありながら対等なアライアンスという構造がおかしい
「ガバナンス上のゆがみを正すには、資本関係を正常化することだ。対等のアライアンスというならそれにかなう対等の持ち株にするか、一般株主との利益相反の問題を起こさないように完全な親子関係にするかどちらかしかない」
--今後、ガバナンスの再構築に向けた議論が本格化する
「ガバナンスの受益者は大株主ではなく一般少数株主だという上場企業の原理原則をきちんと議論すべきだ。その憲法第一条がしっかりしていれば、必然的に親会社側から過半数の取締役が来るようなことなどはおかしいとなってくる」
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【プロフィル】冨山和彦氏
とやま・かずひこ 東大法学部卒、スタンフォード大経営学修士(MBA)。1985年、ボストン・コンサルティング・グループ入社。コーポレイトディレクション社長、産業再生機構業務執行最高責任者(COO)などを経て、2007年から経営共創基盤の代表取締役最高経営責任者(CEO)。和歌山県出身。58歳。
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