【スポーツbiz】プロ野球選手、引退後は「サラリーマン」 球界の新たな潮流に注目

 
みやざきフェニックス・リーグの楽天対阪神戦。同リーグは毎年10月に開催されるプロ野球の教育リーグだ=10月28日、KIRISHIMAサンマリンスタジアム宮崎

 プロ野球選手は、引退後のセカンドキャリアに「一般企業」を志向している。野球界の新たな潮流に注目したい。

 日本野球機構(NPB)は毎年秋、「みやざきフェニックス・リーグ」に参加した選手たちを対象に「セカンドキャリアに関するアンケート」を実施している。今年で12回目。その結果が先週発表され、引退後「やってみたい」職業(複数回答可)として初めて「一般企業で会社員」が1位となった。昨年のアンケートでは7位だったから、大幅な飛躍である。

 厳しい指導者の道

 今年は、12球団252選手が回答を寄せた。彼らの平均年齢は23.5歳。18歳から26歳が208選手と若い層が多く、31歳以上も8人いた。平均在籍年数は3.6年。平均年俸は887.6万円と、同年代の若者の中では恵まれている。79.4%の200選手が独身である。

 その252選手の15.1%が「会社員」を希望、以下「大学・社会人の野球指導者」12.3%、「社会人・クラブチームでの現役続行」11.5%、「高校野球指導者」11.1%、「海外で現役続行」8.7%と続く。

 このNPBのアンケートを長らく興味深く見つめてきたが、目立って「会社員」志向が増えたのは2016年からだ。「やってみたい」に「興味がある」を合わせると2位に浮上、昨年も2位だった。そして今年も、2項目合計では5年連続トップの「高校野球指導者」に次いで2位となっている。

 3年連続2位の背景には、近年の流れがある。引退後の選手を積極的に採用しようとする企業が増えてきている。NPBや選手会なども社会人としてのキャリア養成講習会を開くなど、支援体制を整えてきた。

 逆に、選手の希望が多い指導者となる道は狭い。プロ野球や社会人はポストが限られ、スコアラーやスカウトなどで残りたくとも、狭き門である。

 大学や高校など学生球界で指導者となるためには、プロとアマチュア両方の組織で実施される研修を受けて、審査の後にようやく「指導者資格回復」となる。その上で指導者登録、さらに監督として「口がかかる」のを待たなければならない。決して道は平坦(へいたん)ではない。

 そうした生き残り競争を回避したいのか、それとも一般企業の方が門戸が広いと考えているのか。ともあれ、一般企業を志向する流れは今後も続くと思われる。それを「安定志向」とみる向きもあるが、一般企業が楽なわけもない。

 「まず、野球選手の誰それという名前を捨てること。初めの1、2回は野球を話題にしてくれても、仕事ができなければ後に続いていかない。頭を下げてあいさつし、名刺を両手で渡して両手で受け取るといった選手でいうなら体力づくりの基礎、最低限の社会人としてのマナーを身に付け、仕事を覚えることから始めなければ…」

 そう語るのは建設業で成功した元巨人の阿野鉱二さん。阿野さんは早稲田大学から1969年のドラフト2位で読売巨人軍に入団。大型捕手と期待されたが、腹膜炎の手術などで選手での活躍は短く、むしろバッテリー、トレーニングコーチとして長嶋、藤田、王監督時代を支えたことで知られる。

 企業の期待は突破力

 阿野さんは44歳で退団後、知人の紹介で入社した会社を経て主に鉄骨を扱う株式会社スチールエンジを設立。社長として営業の先頭に立ち、同社を年商100億円の企業に育てた。社長を巨人の後輩、松谷竜二郎氏に譲った後は会長、今は相談役を務める。阿野さんはいう。

 「プロ野球選手に限らず、スポーツ選手は突破力がある。勝つために何をすればいいのか作戦(企画)を考え、練り上げていく力がある。何より、チームの中で何をすればいいのか役割を考えて働く能力がある。スポーツで培った力を信じてがんばれば、道は開けると思う」

 今、スポーツ選手採用に積極的な企業の期待は、阿野さんの語る資質によるものと思われる。一方、若い選手たちはアンケートでこんな答えも残した。引退後の不安がある61.9%。不安な要素(複数回答)としては(1)収入面73.7%(2)進路67.9%(3)「やりがい」の喪失8.3%(4)世間体2.6%。彼らの不安を少しでも減らし、セカンドキャリアが実現できるよう、さらなる環境の整備が求められる。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)