【ローカリゼーションマップ】欧州で「高級パンツ」の確立を! “場違い”に挑戦する日本の下着メーカー
【安西洋之のローカリゼーションマップ】「場違い」という表現がある。ある場の期待とは異なる違和感ある存在に使われる。ネガティブな印象も与えやすいが、「場違い」を「場に馴染む」までもっていくのがビジネスの醍醐味である。
TOOT(トゥート)はメンズのインナーという商品ジャンルを携えて、数多くの「場違い」を取り去ってきた。立体的な形状、微調整を極めた縫製、さまざまな柄。これらが同製品の特徴とする点だ。
同社が創業した18年前、男性用のパンツにバリエーションはほとんど存在しなかった。パンツでオシャレするといえば、奥さんから「勝負パンツで浮気するつもり?」と睨まれかねない。その奥さん自身は高級下着を買い揃えながらも、夫のためにはスーパーの定番商品を買う。この風景がすべてだった。
しかし今、東京の百貨店やセレクトショップの男性下着売り場にいけば、多種多様なパンツがある。こうした新しい市場を先導して作ってきたのがTOOTである。同社の社長・枡野恵也さんは「弊社の製品は抑圧された男性の解放の象徴でもあるのです」と語る。
TOOTは、来年1月、初めてミラノのコレクションで新作を発表する。これも「場違い」への挑戦だ。およそ20年前の日本と同じく、欧州においても男性下着はファッションのアイテムになっていない。そこで枡野さんは、「高級メンズインナー」というカテゴリーをファッション業界のなかに持ち込もうとしている。
昨年6月、英フィナンシャル・タイムズにインタビュー記事が掲載されたが、その見出しに「アンダーウェアのルイ・ヴィトンを目指すTOOT」とある(この記事でオンラインの香港と米国向けの売り上げが倍以上になった)。
まさしくその第一歩である。
TOOTの海外市場は口コミが作ってきた。知る人ぞ知るブランドで、特にアジア各国での売り上げはファッション感度の高いファンに頼るところが大きい。しかしながら、口コミの拡散力はアジア各国までとの限界を枡野さんは感じていた。それに高級ファッションは欧州でブランドを作るのが王道だ。
2年前からフィレンツェで年2回開催される男性ファッションの展示会「ピッティ・ウオーモ」に出展してきた。それなりの反応があり注文も受けるのだが、枡野さんは壁も感じてきた。
「スーツやジャケットを買いにくるバイヤーの視界に、パンツはちゃんと入らないようです」と悔しがる。そこで、来年はピッティ・ウオーモとミラノコレクションの2本立てで、欧州における存在感を増すつもりだ。
どちらのイベントの主催者からも、「メンズのインナーはファッションの世界ではおまけだからなあ」と暗に場違いを指摘されながら、枡野さんは、そうした反応にこそ希望をみる。
「日本でもそれまでなかった市場を作ったわけで、欧州でもこれからです」と戦う意欲は満々だ。
実際には、既にベルギー・フランスやオランダ等にはTOOTを扱っている店がある。何度も欧州各地のバイヤーとは商談を重ねてきた実績もある。それにオンラインでは世界中からオーダーが入っている。ベルリンには10年来の同社製品のファンがいて、その人から自分がビジネスをしたいとのオファーも受け取っている。これらの点と点が、ミラノコレクションで繋がっていけばビジネスは「場に馴染んでいく」ことになるだろう。
ただ、ひとつ懸念がある。
各国の人たちのローカル志向だ。いわゆる貿易保護主義といったレベルのことではないが、心情的に自国製品への共感度があがっている。
「フランスのバイヤーから言われたのですが、20年くらい前だったら、世界各国の良いものを集めてくればバイヤーとして自慢ができたというのです。しかし、今は違う。同じようなものを扱うのなら、自国製品に共感を覚え、それらを応援したい、と話すのですね」と、枡野さんは世界の潮流が変わりつつあることを実感する。
英国製が好きだからといって、服の全てを英国製に統一するのに全神経を注ぐ人もそういないが、売り場でふと目にした原産地表示にまったく無関心ではいられなくなった人がじょじょに増えている、といったことのようだ。
「私たちは、各国にいるニッチなファンを相手にしていく方針なので、そうした大きなトレンドとは少々距離があるとは思うのですが…」と、今後の動向に敏感であろうとする。
高校の時に国連の事務総長になりたい、との夢をもっていた好奇心強い人らしい関心の持ち方だ。これから、きっとこうした素養がもっと生きるだろう。
◇
▼【安西洋之のローカリゼーションマップ】のアーカイブはこちら
【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
Twitter:@anzaih
note:https://note.mu/anzaih
Instagram:@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。
関連記事