東急・相鉄「新横浜線」 新路線のネーミングが素晴らしい理由

 
相模鉄道が東急電鉄と直通するために導入した20000系電車。すでに営業運転を開始している

 昨年12月13日、相模鉄道と東京急行電鉄は、両社を接続する新路線の名称を決定し、「相鉄新横浜線」「東急新横浜線」と発表した。鉄道に関する名前の決定について、けんけんごうごうの近ごろ、直球で分かりやすい路線名の誕生に胸のすく思いだ。(杉山淳一,ITmedia)

 JR東日本の品川新駅が「高輪ゲートウェイ」になったことで、ネットかいわいがざわついた。騒ぎは一気に大きくなり、著名人による反対署名運動も起きている。その直後に東京メトロが日比谷線の新駅を「虎ノ門ヒルズ」と発表したけれど、こちらはおおむね好意的に受け止められている。JR東日本とは対照的だった。

 この決定について私は特段の意見を表明するつもりはなかった。駅名の公募が始まった時は「芝浜がいいナ」と書いた。JR東日本が公募という形式を取ってくれたことに敬意を表して、公募を盛り上げたいという思いから、過去の駅名の例を挙げたうえで「私ならこうする」と例示したまで。

 「高輪ゲートウェイ」の決定は、私にとっては不本意で、「芝浜」と投票したスジを通すために署名運動にも一筆入れたけれども、それ以上は何も望まないし、事業者が「高輪ゲートウェイ」と決めたのだ。所在地の自治体や周辺の人々に害がなければそれでいい。

 TOKYO MXの番組「5時に夢中!」でもこの話題になり、鉄オタ4人衆の居酒屋トークのような場面に私も出演した。そこで私は「鉄道ファンとしては、鉄道会社が決めたルールで遊ぶだけ。文句を言う筋合いではない」と話した。鉄オタ4人衆トークはマツコ・デラックスさんが気に入ってくださっているそうで、今回で3回目の出演となった。

 そんなことをわざわざ書き記した理由は、「高輪ゲートウェイ」と書けば検索で引っ掛かってこの記事を読んでくれる人が増えるかな、という浅ましい考えだ。賛否のどちらを書いても話題になり、駅名は広まって定着し、JR東日本の思惑通りである。ならば乗せられるのではなく、こちらから乗ってしまえという心境だ。

「神奈川東部方面線」では心が動かない

 今回の本題、「相鉄新横浜線」「東急新横浜線」は近年で最も分かりやすく秀逸な名前だ。この路線はもともと「神奈川東部方面線(仮称)」という事業名で立案、建設されてきた。相模鉄道の本線を分岐し、新横浜を経由して東急東横線の大倉山に至るルートだ。大倉山駅で東急東横線と直通運転するという一文が付されている。相模鉄道との直通までは触れられていない。相模鉄道と直通し便利になると、相模鉄道のドル箱区間である横浜~二俣川間に負の影響を与えかねないという配慮かもしれない。

 それはともかく、「神奈川東部方面線」という名前は何を指しているかさっぱり分からない。神奈川県警の機動隊かと勘違いしそうだ。神奈川東部線なら、横浜川崎あたりかなと思うけれども、東部方面となると、起点が示されないから、どこから東部なんだと思う。

 いずれにしても「神奈川東部方面線」は2000年に「東京圏における高速鉄道に関する基本計画について(運輸政策審議会答申18号)」として運輸大臣(当時)に答申され、これに沿う形で整備が検討された。東急東横線と直通とあるから、主な受益者は東急電鉄になろう。だから東急電鉄が補助金を得て建設するか、東急電鉄も参画した第三セクターを設立するか。

 しかし、先に動きを見せた事業者は相模鉄道だった。04年に相模鉄道は西谷~羽沢間の支線を建設し、羽沢からJR東日本所有の貨物線に直通する構想を発表する。神奈川東部方面線が二俣川に届く前に、自前で都心直通線を造ろうと考えたのかもしれない。

 東急電鉄の動きは14カ月後に明らかになる。東急電鉄が相模鉄道との直通線を国土交通省に申請するようだと報道された。「神奈川東部方面線」を軸に、相模鉄道、東急電鉄、JR東日本の調整が始まったことを示している。ここから構想は計画へと推移し、「神奈川東部方面線」は「相鉄・JR直通線」と「相鉄・東急直通線」として公表、周知されていく。2つの鉄道事業者をつなぐ路線である。かなり分かりやすくなった。

正式決定の「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」が秀逸な理由

 正式な路線名となった「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」は、「神奈川東部方面線」構想のうち「相鉄・東急直通線」のほうだ。1本の路線だけれども、途中の新横浜駅で営業主体が変わるため、相模鉄道と東急電鉄は自社の路線名を付ける必要がある。そこで、互いの路線にとって終点となる「新横浜」を路線名に掲げた。

 「新横浜」。これが秀逸な理由の1つ目。この路線は本来、相模鉄道沿線と都心方面を結ぶ役割だ。しかし、路線名は新横浜を推した。これで「新横浜から東海道新幹線に乗れますよ」というアピールができた。相模鉄道にとっては、本来の都心直通客だけではなく、新横浜が便利になることで「相模鉄道沿線の全ての人にメリットがありますよ」と印象づけた。

 東急電鉄にとってはどうか。東急沿線の人々にとって、相模鉄道と直通するメリットを感じる人は少ないだろう。正直なところ、相模鉄道まで行かなくても用は足りる。だが、無関心な東急沿線の人々にとって「新横浜で東海道新幹線に乗り換え」のインパクトは大きい。もう新幹線に乗るために山手線まで遠回りして品川に行かなくてもいいし、菊名で横浜線に乗り換えて、また新横浜で乗り換えてという手間も不要だ。

 そして、新横浜という駅は東海道新幹線利用者にとても重要だ。東海道新幹線は午前6時が稼働開始である。東京発6時ちょうどは「のぞみ1号」、品川発6時ちょうどは「のぞみ99号」、新横浜発6時ちょうどは「ひかり493号」だ。このうち、静岡、名古屋、京都、新大阪に最も早く着く列車は「ひかり493号」だ。新横浜始発だから、東京発、品川発に比べて指定席が取りやすく、自由席も座れる。

 東急田園都市線沿線で神奈川に住む人々は長津田からJR横浜線で新横浜へ、あざみ野から横浜市市営地下鉄で新横浜へ向かうだろう。東急東横線沿線と都内の沿線の人々は、相模鉄道には興味がなくても、新横浜に行く路線の誕生は歓迎するはずだ。東急沿線の人々にって相鉄沿線には観光目的地がない。実はこれが相模鉄道にとって解決すべき課題だけれども、それは別の機会にする。

 「新横浜線」だけではなく、互いの会社名を冠した。これが秀逸な要素の2つ目。これは境界を分かりやすくするためだけではない。神奈川県外から東海道新幹線で新横浜駅まで来た人に、適切な経路を示す効果がある。横浜へ行くならJR横浜線に乗ればいい。相鉄沿線に行くなら相鉄新横浜線、東急沿線に行くなら東急新横浜線に乗ればいい。

 課題があるとすれば、東急東横線・目黒線から先の地下鉄直通方面をどう案内するかだ。しかし、いったん東急新横浜線に乗れば、あとは乗り換え案内アプリが何とかしてくれるだろう。主な直通先はどこになるか。ダイヤも未定だから、これは頑張ってほしい。

 東急新横浜線は、東横線直通なら東京メトロ副都心線、東武東上線、西武池袋線の路線図に記載されるはずだ。目黒線直通なら東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線、埼玉高速鉄道の路線図に記載されるだろう。これらの路線は全て、乗り換えなしで東海道新幹線の駅まで行けることになる。これは沿線の不動産価値を上げる好材料だ。JR東海と組んだプロモーションが行われるかもしれない。あるいは、新横浜始発の列車を増やすなどの対応もあるかもしれない。

名前は「分かりやすさ」が至上である

 私の物事の評価軸はシンプルで「便利か」「楽しいか」の2つだけだ。便利なものは社会に必要とされる。楽しいものは社会に活気を与える。「便利で楽しい」はもう最高の組み合わせだ。鉄道は社会にとって「便利」な存在であり、近年は観光列車の登場によって「楽しい」が加わりつつある。

 駅名や鉄道路線名は「便利か」「楽しいか」で評価すると「便利」が最も大事。カッコつけたりひねったりしても、不便だと使われない。一時期、地方鉄道が話題作りのために「日本一長い駅名」を競った時期があった。ある日、その中の1つの駅で降りて周辺を歩き、通りすがりの人に「この近くの駅はなんと言いますか」と尋ねたら、「名前はややこしいらしいが、おれたちゃ“駅”としか呼ばねぇ」という返事だった。ここが無関心の始まりだ。たぶん、駅名を知らない人は鉄道を利用しない。

 「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」という名付けによって、新路線の効果、影響範囲がパッと連想できるようになった。奇をてらわず、話題性のためだけの公募などは行わず、誰もが納得できる最適解を示した。名前は道具だから、分かりやすさが最も大事。クルマや化粧品、お菓子、おもちゃなどとは違う。今後、駅名や路線名を付ける鉄道事業者は「東急新横浜線」「相鉄新横浜線」を教訓にしてもらいたい。本当に便利か。使ってもらえるか。名前はとても大事だ。

 ところで「相鉄・JR直通線」のほう、羽沢横浜国大駅からJR東日本側の路線名はどうなるだろう。正式な路線名は東海道本線で、通称は東海道貨物支線である。おそらく運行系統の愛称が付くと思われる。さてJR東日本さん、どんな名前を付けるだろう。また公募しますか……。