湖池屋スコーンは「若者のスナック離れ」にどう立ち向かうのか

 
湖池屋スコーンの新パッケージ(同社提供)

 「スコーンスコーン♪」と軽快なフレーズに合わせて人々がダンスするテレビCM、覚えている人も少なくないのでは。かつてそんな宣伝で話題になったロングセラーのスナック菓子「スコーン」を、湖池屋が2月に刷新する。パッケージ商品の中身も大幅に変更し、ターゲットを明確にしたマーケティングの新施策も始める。

 よく菓子業界で需要が先細る要因として挙げられるのが少子化だ。しかし湖池屋が今回スコーンを新たに売り込むのは高校生、つまり減っていくはずの若年層になる。アイスなどの“プチ高級”路線で大人向けに活路を見出だした菓子メーカーも少なくない中、湖池屋の取り組みは新施策とも、ある意味原点回帰ともいえる。スコーンを高校生に売り込む狙いを追った。

 スナック市場は「ポテトチップス1強」

 湖池屋のスコーンは1987年発売でトウモロコシが主原料のスナック。特徴的なテレビCMが話題となった80年代後半から90年代前半に最も売れたが、現在の売り上げは年間約30億円とピーク時の6~7割程度まで落ち込んだ。

 ジャガイモ、小麦、トウモロコシ、大豆にコメとさまざまな原料の商品が存在するスナック業界だが、実はポテトチップスの1強状態が続く。同社などの調査によると、2017年の袋入りポテトチップス(成型ポテトを除く)市場は450億円強と、北海道でジャガイモの不作が起きて生産が滞った16年を除いてほぼ横ばい。一方、その他の袋入りスナックは、すべて合計しても17年で400億円を割っている。08年に比べ100億円以上減少した。

 湖池屋でスコーンのマーケティングを担当する内田圭亮さんによると、16年の「ポテチショック」直後、スコーンなどその他のスナックの売り上げは一時的に上がったが、少したつと逆に下落した。むしろポテトチップスの方が盛り返す結果になったという。

 老舗ブランドの“老朽化”問題

 海外ではトウモロコシ原料のスナックも人気だが、日本の消費者の間ではどうしてもスナック=ポテトチップスのイメージが根強い。加えて「非ポテト」スナックが停滞している理由として内田さんが挙げるのは、ロングセラー商品の宿命ともいえるブランドの“老朽化”だ。

 主に若者が食べているイメージのあるスナックだが、スコーンの現在の主要ユーザーは35~45歳。ちょうど冒頭で紹介したCMが流れていた1980~90年代に子供時代を過ごした層が該当する。ただ、このCMは97年に放送終了している。

 湖池屋が2017年に調査したトウモロコシ系スナック市場における世代別の喫食頻度では、スコーンは30代で他のブランドを引き離しトップとなった。ただ、10代では4位、20代も5位と落ち込んでいる。例のCMを生で見ていない世代だ。

 高校生が抱く「昭和」のイメージ

 18年、湖池屋が高校生にアンケートをとったところ多く挙がったのは「昭和っぽいお菓子」というイメージだった。「若い世代に『自分たちのお菓子』だと思ってもらえていない。彼らがユーザーにならないとこのままでは先細るだけ。徐々に首を絞められており、若返りの必要性を感じた」(内田さん)。

 他社でも老舗ブランドの“老朽化”は珍しくない。同じくトウモロコシが原料の明治「カール」は約50年親しまれてきたロングセラーだが、17年8月に東日本エリアでの販売を終了した。同様に若いユーザーの取り込みがうまくいかなかったとみられる。内田さんは「ポテトチップスは菓子メーカー各社が非常に力を入れてきた。しかしその他のスナックについては、業界全体があまり新施策を打ち出してこなかったのではないか」とみる。

 一方、高校生に「どんな味のスナックを選ぶか」を聞いたところ、人気が集まったのはスコーンが本来売りにしていた「濃い味」だった。スコーンに対して他ブランドよりこの特徴を評価しているという結果も出たことから「高校生は本当はスコーンを買ってくれる可能性が高い。気付かれていないだけではないか」(内田さん)と考え、彼らに特化したマーケティングを打ち出すことにした。

 生地にも味付けて最後まで濃厚に

 こうしてスコーンを全面刷新し始めた内田さんら。従来、スナック菓子のリニューアルでよく取られる手法はフレーバーの変更だ。投資も少なくて済み、期間限定品なども打ち出しやすい。ただ、スコーンを巡っては「小手先のリニューアルでブランドは生まれ変われない。商品の中身もマーケティング手法もフルで変える必要があると考えた」(内田さん)。

 まず、ブランド刷新に際して既存ユーザーを取りこぼさず、さらに支持を厚くするため、スナック自体を改良した。もともとスコーンはコーンでできた「クランチ」という味のない生地の一種に、「シーズニング」と呼ばれるパウダーを付けて味付けしていた。

 ユーザーからは「最初は濃い味がしておいしいが、(1片のスコーンを食べていくと)最後の方は味が無くなる」という声が上がっていた。そこで、クランチにもスイートコーンのパウダーを練りこませて生地自体に甘みや香ばしさを付け、売りである味の濃さが長続きするようにした。

 若者向けに振り切る

 さらに、本丸である高校生向けマーケティングで課題となったのが「情緒的価値」をどう感じてもらうか、だった。今回の高校生へのアンケートでは、スコーンに対して「濃厚」「食べ応え」といった舌などで感じられるイメージが挙がった。一方で「かわいい」「かっこいい」といった、情緒的なイメージはほとんど出なかった。

 「メインユーザーである30代なら『あの面白いCMのお菓子』というイメージを持ってくれているが、CMを知らない今の若者にはそれがない。心のつながりが欠落しているので自分たちの菓子だと思ってもらえない」(内田さん)。

 まず、赤い「スコーン」の文字でおなじみのパッケージを捨てた。商品名を大きく書いてシンプルなデザインにしたうえで、ブランド初となるマスコットキャラクターをあしらった。ゴリラ風の「ハラペコング」だ。見た目が変わっても既存ユーザーは脱落しないと踏んで、若者に受けそうな分かりやすさに振り切った。

 若者向けマーケティングの定番である、SNS上で話題になるようなキャンペーンも欠かさない。スマホを汚さずに食べれるようにと「指サック」を、「スコーンから離さないぞ」というメッセージを込めてスコーン型の抱き枕をプレゼントするWebキャンペーンを始める。「若者はスマホから離れられない生活のためスナックを敬遠している。彼らに真剣に寄り添うため解決策としてプレゼントする」(内田さん)という。

 中食の拡大が脅威に

 こうした若者向けにSNS上の「バズり」を狙ったマーケティング自体は、他の菓子メーカーでも決して珍しくない。湖池屋も以前、「苺のショートケーキ味」など珍フレーバーのポテトチップスを発売して話題を呼んだ。

 ただ、今回求められているのは、かつて奇抜なテレビCMで若年層に強い印象を植え付けてきたスコーンが、今の若者にも親しまれるようにする地道で長期的なイメージ戦略だ。

 特に、内田さんはスコーンのライバルはポテトチップスですらないとみる。「コンビニの袋入りスナックの棚はどんどん狭くなっている。ホットスナックをはじめ中食のジャンルが伸びており、間食にお菓子が選ばれにくくなっているからだ。若者のスナック離れが起きている」(内田さん)。

 湖池屋は社名変更した16年、キリングループで長く商品開発を手掛けた佐藤章氏を社長に迎えて商品やマーケティング戦略を一新してきた。既に高級路線のポテトチップス「KOIKEYA PRIDE POTATO」などで成功を収めつつある。「若者のスナック離れ」の状況を逆に伸びしろと捉えて全面刷新することで、新規ユーザーの開拓につなげられるか。