【アメリカを読む】巨大ITのデータ独占に不信感 「GAFA包囲網」の今後は

 

 「ネット界の革新者」として君臨する米IT企業に厳しい目が注がれている。グーグルやアマゾンなどの頭文字から「GAFA」と呼ばれる4社は、優れたサービスで利用者を拡大。蓄積した検索や買い物履歴のデータなどを活用して高収益をあげてきた。だが最近の個人情報流出や不透明なデータ利用方法をめぐり、「新規立法による規制が必要だ」と米議会や大手メディアが批判。今年は4社への包囲網が一段と狭まるシナリオが濃厚だ。(塩原永久)

 「米国にはプライバシー保護の本格的な立法が必要だ」

 18年12月21日付の米紙ワシントン・ポストの社説はそう述べ、IT大手に対する規制強化の必要性を説いた。

 同紙は、交流サイト(SNS)大手のフェイスブックが、外部のアプリ開発企業に共有を認めた利用者データの管理方法に不備があると問題視。同年12月に入り、首都ワシントンの司法長官が同社の提訴に踏み切ったことなどを受け、社説として新規立法の必要性を明確に打ち出した。

 12月19日には米紙ニューヨーク・タイムズが、フェイスブックがアマゾン・コムなど大手IT企業に利用者情報へのアクセスを特別に認めていたと報道。次第に米大手メディアも、IT規制強化論に傾いている。

 これまで米国では、ビジネスを縛る規制を減らし、自由な事業展開を後押しする風土を重視してきたが、ロシアによる米大統領選への干渉問題でSNSが悪用されたとの疑念もあり、議会内でもIT大手への規制強化論が浮上している。

 米上院商業・科学・運輸委員会のスーン委員長(共和党)ら3議員は、18年10月中旬、検索大手グーグルのピチャイ最高経営責任者(CEO)に書簡を送付。同社の透明性向上を求めるとともに、委員会が「全米規模でプライバシー保護の枠組みを確立する立法」に向けた取り組みを進めると言及した。

 「利用者のプライバシーと安全を守ることは極めて重要なわが社の使命だ」

 米議会下院での18年12月11日の公聴会で、ピチャイ氏はそう述べ、情報流出の恐れが判明したばかりの同社に向けられた疑念の払拭に躍起となった。

 グーグルは前日10日、セキュリティー上の欠陥で、同社のSNSから5千万人超の情報漏れの恐れがあったと発表したばかり。

 ピチャイ氏は、9月にも上院から証言を求められていたが、応じなかったために「傲慢だ」と批判を浴びた。12月の下院公聴会で、ようやく証言に立ったグーグル首脳の動きは、「IT界の巨人」に対する包囲網が一段と狭まっていることを映し出した形となった。

 グーグルとアップルにフェイスブック、アマゾン・コムを加えたGAFAの4社は、一時、時価総額が計3兆ドル(約340兆円)とドイツの国内総生産(GDP)に迫る勢いだった。2004年創業のFBをはじめ、ベンチャー企業から米国屈指のIT大手となったが、FBで今春、個人データの大規模な不正流出が発覚。以降、IT業界で主導権を握るGAFAへの風当たりが一気に強まった。

 厳しい視線の背景には、各社がSNS上の友人などの情報を収集し、蓄積したデータを独占的に扱っていることがある。「プラットフォーマー」と呼ばれるこうした企業は、膨大なデータを解析してさらにサービスを改善したり、利用者の趣味や所得の情報を駆使した広告表示で高い収益をあげることができ、寡占や独占が進みやすいとされる。

 日進月歩の技術進歩を活用するIT企業に、大量の個人データを安心して委ねられるのか。アマゾンなどが発売したAI(人工知能)を搭載したスピーカーで、夫婦の会話が勝手に録音され外部に送信されるトラブルも報じられた。

 対応する規制や法制度がITサービスの実態に追いついていないとの認識が高まる中、欧州連合(EU)が、個人情報保護の取り組みとして「一般データ保護規則」(GDPR)を5月に施行。日本も監視組織の設立も視野に規制強化の検討に動き出している。

 グローバル展開する巨大IT企業が、事業規模にふさわしい課税を逃れているとの批判も根強い。

 ニューヨーク大のギャロウェイ教授の昨年段階の試算によると、08年以降に小売り大手ウォルマートが支払った法人税は約640億ドルに上ったが、アマゾンは約14億ドルだったという。

 IT時代の課税制度づくりは20カ国・地域(G20)関連会合などの議題となっているが、各国の思惑が絡んで合意は容易ではない。

 GAFAを中心にIT株が牽引(けんいん)してきたニューヨーク株式相場も11月以降は低調だ。GAFAに成長期待を注いできた投資家にも、かつてほどの熱気はなく、GAFA4社の時価総額も急落した。

 米連邦議会は2019年から、下院で野党・民主党が多数派を握る。民主党は伝統的に、企業を縛る規制強化に積極的な立場だ。巨大IT企業をめぐる疑惑が次々と浮上する中、IT大手に対して向けられる「不信の目」が払拭される兆しはみえず、今年にも「IT規制論」が一気に進むシナリオも見え隠れする。IT業界で「アメリカン・ドリーム」を体現し、賞賛されてきたGAFAに対する風向きは、確実に変わりつつある。