【スポーツi.】“全て「動物の穴」”“時短推奨”…ゴルフ人口、ルール簡素化で拡大なるか

 
バンカーショットを放つ松山英樹。ルール改正で苦手な人に救済措置が設けられた=太平洋クラブ御殿場コース

 年が明けた。ゴルフの初打ちに行った。寒い。体が温まっていないからボールが曲がる。ラフに入った。探していると、偶然にもボールが靴に当たって動いた。自分のボールだった。

 「あっ…」

 元場所に戻して打った。従来のルールなら“誤所”からのプレーで“2打罰”になるが…。今年からは、故意でない行為の場合、ペナルティーなしでプレーができる。もちろん同伴競技者を呼んで、確認させるような時間の無駄もなくなった。

 難解な規則書

 2019年1月1日からゴルフ規則が大幅に改定された。世界のゴルフ規則を統括するR&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セントアンドルーズ)とUSGA(全米ゴルフ協会)は一昨年の3月、複雑なゴルフ規則がゴルフ人口の減少を招く一因として“簡素化”を発表した。

 確かにそうだ。規則書を読んでいると、法律の専門書のような言葉遣いが並び、難解な表現が多い。さらに重箱の隅を突くような表現で、“このケースは要するにどうしたらいいの?”と思わせるような項目が並ぶ。思わず頭が痛くなる。

 たとえばこんな例がある。コース上の「穴」問題である。

 従来の規則では、モグラなどの“穴掘り動物”に関して、その穴に入ったボールは無罰で救済が受けられたが、イノシシなど他の動物は除外された。でも実際に、その穴が“穴掘り動物”なのか、そうでないのか判断が難しい。ゴルフはその場に審判がいないというスポーツ。従来のあいまいさはプレー進行上、遅延になりうる可能性が高いが、新ルールは明快。全て「動物の穴」と定義され無罰救済。ジャッジは速やかにできる。

 R&Aも「その複雑さのせいで若いゴルファーやなじみのない人にとって不快…」と反省。すなわち厳密さゆえに、ゴルフへの敷居が高くなり、それがプレー参加者の減少の一因ととらえたのである。

 R&Aの報告によると、世界のゴルファー人口は、12年と比較して2.4%減。英国では4.3%減、米国では7.9%減(17年、スポーツマーケティングサーベイ社調べ)。日本のゴルフ人口も諸説あるが、全盛時の約1500万人から、いまや800万人程度と大幅減少しているといわれている。

 “時短効果”狙う

 ゴルフ場は遠隔地にある。プレー料金も、かつては平日で1万円以上もしたが、近年は半額近くなり、廉価になった。そしてルールも“簡素化”したことで「初心者でも敷居が低くなってゴルフ人口拡大の活性化につながってくれれば…」とゴルフ関係者は改正を歓迎している。

 では今回の主なルール改正とは? まず『速やかなプレー』として…。

 (1)前方の安全確認ができた者から打つことの奨励(2)球探しは5分から3分以内へ(3)ピンをさしたままパットしてもいい。旗竿の付き添いを待たなくてもいい(4)バンカーが苦手な者は、2打罰で救済エリアから打てる(5)ドロップは肩の高さから、膝の高さへ。球が大きく転がるのを防ぐ…など。どれも“時短効果”を狙ったものである。

 さらにバンカー内の禁止事項も改善された。従来は石や木の枝など自然物は取り除けなかったが、「バンカーショットは砂への挑戦」と定義され、無罰で取り除ける。“あるがままの状態”という厳格さは基本だが、プレー重視は分かりやすい。

 そして改めて重視しているのは『誠実さ、正直さ』だ。

 冒頭で記した“ボール探し”のケース。ボール確認のため球を拾い上げても無罰でプレー可能。その時、同伴競技者に告知する義務はない。そもそもゴルフはその場に審判がいない。自らが規則を適用して、必要とあれば罰を科すゲームである。そのためプレーヤーは全ての面で誠実さ、正直さが求められる。プレーヤー自身の“自分の判断”を尊重である。もちろんルール無視の“自分勝手な判断”はマナー違反だが…。

 20年東京五輪では、ゴルフも正式種目として開催される。簡素化でプレー人口が拡大すれば、おのずと五輪のゴルフも盛り上がるだろう。そこは大いに期待したい。(産経新聞特別記者・清水満)