【木下隆之のクルマ三昧】デトロイトショーで拍手喝采 レクサスのLCコンバーチブル、市販化は確定的

 
レクサスのLCコンバーチブル・コンセプト

 1月14日13時10分。北米デトロイトショーのレクサスブースはどよめきに包まれた。というのも、レクサスが発表した「LCコンバーチブル・コンセプト」が、思わず息を呑み見惚れてしまうような、美しい姿で登場したからである。

 焦らすように静かに回るターンテーブルのうえで、セクシースターが妖艶な姿態を披露すると、一旦はあたりが静まり返り、その後になってようやくフラッシュライトが激しく焚かれた。そして割れるような拍手が響いた。

 発売時期は未定だ。あくまでコンセプトモデルとしての発表だから、発売されるか否かの確証も得られなかった。だが、完成度は高い。いますぐにでも公道を走れるのではないかと思うほど細部の作りは整っている。

 高級ブランドには不可欠

 レクサスのラインナップからオープンスポーツが消えて久しい。かつてはスーパーGT選手権を制するまでした「SC」が絶版となり、「IS C」も静かに引退した。それからというもの、レクサスはプレミアムブランドとしての地位を確立したにも関わらず、ラインナップにオープンモデルを欠いてきたのだ。贅沢かつ高級なコンバーチブルがブランドにとって欠かせないことに気づかないはずもないレクサスが現状を放置しておくわけもないから、市販を前提に開発が進んでいるに違いない。

 そもそもクーペの開発時に、コンバーチブルを想定してあらかじめ対策を施していたというから、市販化は確定的だと考えていい。あとは市場のラブコール次第である。

 ルーフは電動開閉式のソフトトップだという。ショーモデルはデザインスタディのため、クローズドの姿を披露することはなかった。だが、幌を閉じた状態でも、スタイルを崩さないはずだ。念じるように目を閉じて、頭の中で幌を被った姿を空想しても、とてもスタイリッシュなフォルムしか浮かばない。

 スタイルを損なわずルーフを格納

 ソフトトップは小さく折り畳まれてドライバーの背後に格納される。

 オープンラインは水平にスパッと裁断したのではなく、クーペのキャラクターラインを残している。ルーフはすっきり収まる。パネルの切り欠きから予想するに、トランクスペースも犠牲にはなっていないのだろう。

 そればかりか、リアシートも失っていなかった。ひとときの撮影タイムを終えた後、真っ先にショーモデルに歩み寄り、覗き込んで驚いたのはそこだ。リアシートのその空間をも犠牲にせず、スタイルを損なわないようにすっきりとルーフを背後に格納したカラクリ技術は圧巻である。

 リアのヘッドレストを隠すようなスタイルだから、歩み寄ってみないと、2シーターなのかと見紛う。それがスッキリとした印象を与えている。

 「ルーフはソフトかハードか」の好みは人それぞれだろうが、いくら耐候性に有利だとはいえ、ハードトップでは4シーターでありながらここまですっきりとルーフを収めることはできなかったはずだ。ソフトトップは重量的にも有利だ。

 リアシートは子供ですら短距離での移動に限られるほど狭い。日常的には、荷物を置いておくためのスペースと割り切る必要がある。だが、LCはその名の語源である「ラグジャリークーペ」だから、オープンモデルとなっても武闘派クーペとは異なる余裕があってしかるべき。その意味では、4シーター化はエンジニアの強いこだわりだろう。

 最も得意とするパワーユニット

 ちなみに、コンセプトモデルに搭載するエンジンはクーペと同じV型8気筒5リッターである。だとするとクーペと同じ出力と想像するのが自然だ。市販化されれば、最大出力は477ps、最大トルク540Nmに限りなく近い数字になるに違いない。

 ハイブリッドに関する言質は得られなかったが、レクサスが最も得意とするパワーユニットでもあるわけだから、市販化の際にはラインナップに加わると予測している。

 ルーフを失ったことで低下するボディ剛性は、フロア関係の補強で補うことになる。ルーフ開閉のためのモーターも積む必要もある。そのために100kgほどの重量増を覚悟しなければならない。だが、低回転から540Nmものトルクが溢れるのだから動力性能に不満はないだろうし、低回転域でモーターアシストが得られるハイブリッドになればなおさら心配はいらない。

 いやはや、それにしても「LCコンバーチブル・コンセプト」は美しい。奇を衒わず、素直に自然にオープンモデルを成立させていることは賞賛に値する。

 これ以上焦らさないでほしいとオープン派の僕は、静かに回転するターンテーブル上で艶めかしく焦らす「LCコンバーチブル・コンセプト」を見て願った。

【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちらから。

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【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。