「暮らしを創る」企業理念を貫く 市川兄弟から始まった象印マホービン
【関西企業のDNA】「魔法」のように長時間、食べ物や飲み物を保温・保冷できるようにした魔法瓶の技術をもとに、数々の製品を開発してきた象印マホービン。家庭日用品総合メーカーとして発展し、平成30年5月に創業100周年を迎えた歩みには「暮らしを創る」という企業理念が貫かれている。(栗川喜典)
欧州発祥の技術
大阪市北区の象印マホービン本社ビル1階にある「まほうびん記念館」。平成20年に同社90周年を記念して開館し、100周年の30年5月にリニューアルした。同社が発売してきた魔法瓶製品や調理家電、生活家電など計300点以上が展示され、魔法瓶を中心とした歴史を学べるようになっている。開館以来、延べ約1万5千人が訪れた。
入り口のそばにあるのが、英国人化学者ジェームス・デュワーが開発した魔法瓶の原型だ。1892年、低温を維持して液体窒素を保存する容器を研究していたデュワーが、ガラスの真空二重壁の内部に銀などの金属メッキを施して鏡のように光らせ、輻射(ふくしゃ)熱を防ぐことを考案。やがてドイツで家庭用品化されて欧米に広がり、明治時代に日本にも輸入された。
リニューアルで新設されたゾーン「まほうびんの森」では、有田焼やコルク、木材を使ったり、明治乳業などの企業広告をあしらったりした珍しい製品100点以上がメーカーを問わず展示されている。「自社のPRではないので」(象印の広報担当者)という方針通り、日本の魔法瓶の歴史でまず登場するのが、大阪の電球会社に勤めていた八木亭二郎だ。
八木は明治45年、電球製造の真空技術を応用して国産第1号の魔法瓶を完成し、「八木魔法器製作所」を起業。以降は大正~昭和に数多くの魔法瓶メーカーが登場し、優秀なガラス職人が集積していた大阪が、その中心地となった。
これに目を着けたのが愛知県で電球加工職人だった市川金三郎で、兄の銀三郎(1898~1952年)とともに大正7年、大阪市西区に合名会社「市川兄弟(けいてい)商会」を設立し、魔法瓶の中瓶製造に乗り出した。昭和36年に現社名となった象印マホービンの創業年だ。
ゾウの由来は?
兄弟は下請けの中瓶製造にとどまらず、12年に初めて自社製品第1号の魔法瓶を完成、量産化に乗り出した。「当時は英仏の植民地として欧州人が多く暮らしていた東南アジア向けなどへの輸出が中心のため、現地で神聖な動物とされ、生命力が強く寿命の長いゾウが商標に選ばれた」と、象印で周年事業事務局長を務める樋川潤・経営企画部チーフマネジャー。
その後、弟の金三郎は大正末期に始まったラジオ放送で注目された真空管の製造に夢をはせて上京。兄の銀三郎は大阪で魔法瓶専業に励み、先の大戦の混乱期を経て、長男の重幸とともに事業の復興に当たった。
重幸は「本当の魔法瓶の使い方は家庭で使う卓上型ポットにある」と開発に取り組み、昭和23年に戦後第1号商品「ポットペリカン」を発売。銀三郎は「お前の好きにしたらええ」と、重幸ら若い世代に、暮らしに根ざしたものづくりを任せるようになった。このポットペリカンも記念館に展示されている。
魔法瓶の卓上型ポットはメーカー間で熾烈(しれつ)な開発競争が続き、ハンドルを握ったまま親指で蓋を開けられるワンタッチ式や、レバーやボタンを押すだけでお湯を注げる機能、内部のお湯の量が見えるタイプなどが次々と登場。魔法瓶の水筒もレジャーなどの普及で一般的に用いられるようになったが、ガラスの中瓶を使ったものは衝撃で割れて中身がこぼれることもあり、ステンレス製のボトルが競合他社から発売された。
象印は保温力がガラス製より高いステンレス製の開発に取り組み、昭和56年に「タフボーイ」として発売。水筒がステンレス製に移行する原動力となった。
家庭日用品メーカーへ
象印は昭和45年、ご飯を電気で保温する「電子ジャー」を世界で初めて発売し、家電業界へ参入。炊飯機能を加えた電子ジャー炊飯器も発売し、よりおいしいご飯を炊くための機能開発は今も続く。
さらに象印は企業理念「暮らしを創る」のもと、ホットプレートやコーヒーメーカー、グリル鍋なども投入し、家庭日用品総合メーカーに発展。戦後以降に発売した製品は累計約3千点に及び、記念館では、珍しいおかゆメーカー、温泉たまご器、プリンメーカーなども見ることができる。
社長は現在4代目で、銀三郎の孫に当たる典男氏が務める。事業領域別売り上げ構成比を見ると、最大の約64%が「調理家電製品」で、そのうち約40%が炊飯調理。魔法瓶は約30%の「リビング製品」の大半を占め、残り約6%が「生活家電製品」とその他だ。魔法瓶は売り上げ全体の約3分の1だが、祖業を忘れないためにも社名の「象印マホービン」を維持する。
近年でも、2004年アテネ五輪女子マラソンで優勝した野口みずき選手に特別仕様の二層構造の給水ボトルを提供したり、寒冷地用の不凍パイプや国際宇宙ステーション(ISS)の実験などに魔法瓶技術が使われたりしている。
100周年を迎えた象印。新たに制定したメッセージロゴ「ずっと もっと 象印らしく」を掲げ、次の100年を歩む。
■まほうびん記念館(大阪市北区天満1の20の5)は平日の午前10時~正午と午後1~4時に開館。土日、祝日は休館。見学は電話(06・6356・2340)で予約が必要。
関連記事