大容量バッテリーで災害時も安心 日産「リーフe+」はクルマの枠を超えた頼もしいEV

 
日産の「リーフe+」とモデルハウス

 日産自動車が23日、新開発のパワートレインを搭載してバッテリー容量も拡大した高性能タイプの電気自動車(EV)「リーフe+」を発売した。モビリティーとしての進化はもちろん、よりクリーンで持続可能なゼロ・エミッション社会の実現に向けて同社が推進する「EVと社会の融合」の取り組みを一気に加速させるモデルだという。9日に行われた記者発表会に登壇した星野朝子専務執行役員の言葉を紹介しながら、リーフe+が人々の生活にもたらす新たな価値創造に焦点を当てる。(SankeiBiz編集部 大竹信生)

 これまで約50カ国で38万台を販売してきたリーフが、大きくパワーアップした。新開発したe-パワートレインによりモーター出力が向上し、時速80キロから100キロへの加速時間が15%短縮するなど走行性能が大幅に進化。バッテリー容量も従来の40kWhから62kWhに拡大され、一充電による航続距離が約40%増の570キロ(JC08モード)に延長されたのが特徴だ。また、100kWの急速充電にも対応し、従来型の50kW充電よりも充電時間が短縮されている。

 パフォーマンスの向上により商品の魅力や利便性が高まったのはもちろん、バッテリー容量の異なる2タイプのラインアップ展開により、ユーザーのライフスタイルや購入予算など、より幅広いニーズに対応できるようになったのだ。

 「クルマ」を超える価値

 ただし、日産の考えるEVとは単なる移動手段にとどまらない。同社が目指すのは「EVと社会の融合」だ。EVを中心とした包括的な取り組みを通じて「エコシステム」を構築するなど、廃棄物を排出しないゼロ・エミッション社会を作り、EVバッテリーの蓄電・給電機能を生かして人々の生活に豊かな変革をもたらす、というものだ。その一端を担うのが、日産が昨年5月に発表した「ブルー・スイッチ」という活動である。ゼロ・エミッション社会の実現に向けて同社が主体となり、自治体や企業と一緒に「日本を電動化しよう」というアクションだ。

 星野専務は9日の発表会で、ブルー・スイッチについてこう説明した。

 「日本はゼロ・エミッション社会を実現することができる優れた環境が整っており、世界一美しい先進国になることができると思います。活動を開始して以来、多くの自治体や企業の皆様にこの思いを共感いただき、エネルギー分野、観光資源、防災など日本が抱えるいろいろな問題を一緒に解決しようという動きが広がっています」

 災害に強い日本に

 日本社会の電動化に向けた取り組みの一つがインフラ整備だ。「日本には急速充電器が7600基、普通充電器が2万2200基、合計約3万基あり、もうすぐガソリンスタンドの数を追い抜きます。さらに日産ではコンビニやショッピングセンター、道の駅やサービスエリアに充電器を増やす活動をしていますが、それと同時に充電器の口数を増やす活動も進めています。また、充電器の場所はもちろん、充電器の空き状況などが分かるアプリの配信も始めます」。

 日本を災害に強い国にすることも、ブルー・スイッチの大事なミッションだという。「日本は自然災害が多く、避けることは難しいので、安心で安全な社会を作っていくことが大切です。昨年は西日本の豪雨や北海道の大震災など、大きな被害が出ました。北海道では大規模停電が起き、街から灯が消えて交通インフラがストップしました。ビジネスも止まり、食料品の冷蔵・冷凍もストップして大量の食料品を廃棄するなど様々なことが起こりました。そんな中、電気自動車が人々の生活を助けるということが証明されたのも、北海道の地震でした」。実際に多くのユーザーが、自身のリーフを移動可能な蓄電池として、そして有事の際には非常用電源として利用しているそうだ。

 自治体との協力体制も進めている。東京都練馬区とは、災害時にEVに蓄えた大電力を供給する協定を結んだ。日産は災害が発生した際にEVの試乗車を無料で貸与するほか、災害に強い街づくりを目指し、区が所有するパトロールカーを全てリーフに切り替えた。

 EVと家をつなぐV2H

 EVの給電機能を生かしてバッテリーに蓄えた電気を自宅で活用するヴィークル・トゥ・ホーム(V2H)の設置も始まっている。モデルハウスを使ったデモンストレーションでは、大停電が起きて真っ暗になった家の中でも、リーフを家につなぐだけで簡単に電気が普段通りに使える様子が披露された。キッチンのスイッチを押すだけで家全体が瞬時に明るくなり、IHコンロやテレビ、エアコンやドライヤーが当たり前に使えるようになるのだ。リーフ1台で、日本の一般家庭で4日間ほど電力を賄えるという。

 その力は家庭だけでなく、ビルや事業所のような大きな建物でも発揮される。「ヴィークル・トゥ・ビルディング(V2B)は2019年の市場導入を目指しており、43階建ての高層マンションで行った実証実験では、40kWhのリーフ1台でエレベーターを100往復させることができました。たとえば高層マンションで1台、『e-シェアモビ』などのシェアリングサービスでリーフを置いておけば安心・安全な生活が送れるようになります」

 バッテリーや中古車を再利用

 さらにはバッテリーとEV車両そのものの二次利用も進めている。「日産のEVに搭載されるバッテリーはクルマで使用された後でも高い性能を保持しており、様々な再利用・再製品化が可能なんです。2018年3月には使用済みバッテリーからの再利用および再製品化に特化した新工場が福島県の浪江町で稼働開始しました。これによりEV向け交換用バッテリーや蓄電システムといった様々な用途に、クルマで利用された中古バッテリーが再利用されることになります。さらに日産リーフの中古車の活用についても住友商事などとともに取り組みを進めています」。

 これらの活動をより発展させるためにも、大容量のバッテリーを手に入れたリーフe+は欠かせない。「これまでご紹介したエネルギー関連の取り組み以外にも、例えば観光地でのEV活用や拡大も日産のミッションです。日本が誇る観光地をより美しく、静かで素晴らしいおもてなしができる環境にすべく、様々な取り組みが進められています。リーフe+により、ゼロ・エミッション社会の実現に向けたブルー・スイッチ活動はますます加速していきます」