【5時から作家塾】AI搭載、電池不要 今年のCES、次世代補聴器・イヤホンに注目集まる

 
「CES2019」の会場には、多くの来場者が訪れた

 米ネバダ州ラスベガスにおいて、現地時間1月8日から11日の日程で、全米最大規模のコンシューマー向けエレクトロニクス展示会「CES 2019」が開かれた。CESでは毎年「イノベーション・アワード」として、ある分野において目覚ましい技術革新を成し遂げた製品に賞が授与されるが、今年は複数の補聴器やイヤホンが受賞し、注目を集めた。

 今回は28部門で「受賞」および「最優秀賞(基本的に1つ。同数の票を獲得した場合は複数)」が選出。ソフトウェア・モバイル・アプリ部門で最優秀賞を獲得したオティコンの「カイズン(KAIZN)」は、人工知能アシスタントを採用した、補聴器用スマートフォン・アプリである。

 由来はトヨタ、オティコンの「カイズン(KAIZN)」

 補聴器は一般に、小さな音の音量を上げて聞き取れるようにする一方、衝撃音や騒音を抑える機能を持ち、聴力が低下した人の聞こえを補う役割を果たす。しかし、オティコンのカイズンの機能はそれだけではない。同社が開発したインターネット接続可能な補聴器「Opn」と組み合わせて使うことで、利用者の日々の行動や環境を学習し、状況に応じて「モード」を自動調整することができるのだ。たとえば、利用者が周囲が騒がしいレストランで食事をしているとき、カイズンはスマートフォンのプッシュ通知で利用者に、「集中」あるいは「リラックス」モードにする必要があるかと聞いてくる。ユーザーが「リラックス」を選択すると、次からは同じような環境音の場所に行くと自動的に「リラックス」モードに切り替えるといった具合だ。毎日利用してフィードバックを提供すればするほど、ユーザーの好みと設定を学習し、自動的に調整してくれる場面が増える。オティコンによれば、たとえば平日の8時から5時まではオフィスにいるなど、スケジュールが一定な人の方が、カイズンの学習速度が速いという。

 面白いのは、カイズンという名前がトヨタ生産方式の「カイゼン(改善)」に由来するという点だ。なおカイズン・アプリは2019年内にリリースされる見通しという。

 近年発達、補聴器の充電技術

 補聴器は電子機器であるため、動作には電池が不可欠だ。従って電池がどれだけ長時間持つかも、重要なポイントとなる。現在の主な補聴器は空気電池と呼ばれる電池を使用しているが、近年充電システムに対応し、交換しなくても繰り返し使用できる充電池を搭載したものが登場している。

 ワイデックスの「ワイデックス・イボーク」は、こうした従来型の電池を使わない、新しい補聴器だ。現行の補聴器の充電システムの場合、フル充電するのに3時間から6時間程度かかるが、メタノールと空気中の酸素を化学反応させて発電する直接メタノール燃料電池を内蔵したワイデックス・イボークの場合、専用システムにセットすればわずか20秒で充電が完了、最高24時間連続使用することができる。

 充電方法としては、ワイヤレス充電というアプローチも見られた。近年スマートフォンでは、直接コードをつながなくても、充電器の上に置くだけで充電が可能なシステムが普及しつつあるが、今回CES 2019で披露されたのは、2メートル程度と少し離れた距離に置かれたトランスミッターを使い、補聴器をワイヤレス充電するという技術である。

 エナーゴスは以前より、「ワットアップ」という中距離ワイヤレス充電技術の開発に取り組んでいるが、CES 2019でブースは持たなかったものの、別室において同ワイヤレス充電技術を取り入れた複数の試作品のデモを行った。そのひとつがデライトのパーソナル音声増幅器である。機能や外観、使用目的は補聴器とほぼ同じで、難聴に悩む人々を対象としている。この音声増幅器がワットアップ対応となり、近い将来の商品化を目指すという。充電パッドが近くにあれば、いちいち耳から外さなくても充電できるということになる。

 日本には難聴に苦しむ人々が多いにも関わらず、補聴器の利用率は低いといわれている。しかし2017年7月、国際アルツハイマー病会議(AAIC)において、ランセット国際委員会が難聴は認知症のリスクを高めると指摘しており、「聞こえ」を助ける補聴器の技術革新は今後さらに重要になると思われる。(岡真由美/5時から作家塾(R)

 《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

▼5時から作家塾(R)のアーカイブはこちら