【ブロックチェーン革命の胎動】ブロックチェーンは“人間の仕事”にどんな変化をもたらすのか
アジアの会とフジサンケイビジネスアイが昨年11月29日に東京都中央区の会議場で開催した特別セミナー「ブロックチェーン革命で変わる世界と日本」は、仮想通貨の基盤技術として利用されるブロックチェーン技術が切り開く近未来の経済社会を浮き彫りにした。セミナーでは、ブロックチェーンとは何か、その本格活用はわれわれにどんな変化をもたらすのか、について専門家らが解説。80人の来場者らが理解を深めた。その一部を紹介する。(青山博美)
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信用の形変わり、中小にも好機 野口氏
セミナーは三部構成。第一部の「基調講演」には、一橋大学名誉教授で早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏が登壇した。野口氏は日本経済論やファイナンス理論の分野で著名な経済学者だが、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社、2017年)や『仮想通貨革命で働き方が変わる』(ダイヤモンド社、2017年)などブロックチェーン関連の著書も多い。
セミナーで野口氏は、実用例でもある「ビットコイン」を題材にブロックチェーンを紹介。データ改竄が事実上不可能な信頼性の高いデジタル技術であることを強調した。
さらに、現行のコンピュータネットワークシステムでは主流となっている中央管理型と比較。中央で管理するサーバーやその管理主体を“王様”になぞらえ、ネット上の売買や決済などの際に「従来のシステムでは王様を信頼してきたが、ブロックチェーンになるとその必要はなくなり、システムに対する信頼で足るようになる」と説明した。
野口氏は、この変化が「トラストレス(相手に対する信頼の不要な)社会の実現」と評し「これがインターネット上でのビジネスを大きく変えていくことになるだろう」との見方を示した。
インターネットは、事業拠点や事業規模に関わらず、全世界を相手にしたビジネスを可能にするツールと考えられている。ただし、現在のシステム上では、相手に対する信頼が非常に重要となる。利用者は、ネット通販でもネットバンキングでも、相手がよくわからなければ取り引きはしない。このため、繁盛するのは利用者にとって信頼できるブランドや伝統のあるサービスに偏りがちで、いわば大企業とって有利になっているのが実情だ。
その点、改ざんなどができないブロックチェーンの場合、取引相手を信用する必要がない。知名度に乏しい中小企業でも、発足間もないスタートアップ企業でも、大企業と対等にビジネスできる環境が出現することになる、というわけだ。
講演ではこのほか、ブロックチェーンと人工知能(AI)の組み合わせで実現可能となる完全自動会社の登場など、近未来のデジタル社会についても言及した。ブロックチェーンが管理者や経営者の、AIが労働者の仕事を奪うことから、「やがて人間は何をすべきなのか、ということを真剣に考えねばならない時が来る」と指摘。その上で「(デジタル化が進んでも)すべてが代替されるわけではないし、そういう時代に価値を高めるものも出てくる」との展望を語った。
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安心、安全な経済社会に期待 マッカーシー氏
続いて登壇したハーバード大学ハーバードエクステンションスクール講師のマイケル・マッカーシー氏は、ブロックチェーンの仕組みなどのほかに、ビジネスにブロックチェーン技術を活用することのメリットを紹介した。
ブロックチェーン技術の公開された台帳や改ざんなどが事実上できない特性に着目。「例えば外国にいる友人に花を贈る場合では、花がどこにあるのか、費用の決済はどうなっているか、といった状況の可視化が実現し、届かない場合の返金なども迅速に対応でき、取り引きはより安全なものになる」と説明した。
マッカーシー氏はトークンを用いた資金利用のコントロールという用途についても解説した。
ブロックチェーンによるトークンは用途を限定することなどが可能だ。息子に対して用途を学費に限定したトークンを送るといった場合、息子はそのトークンを使って外国語学校に通うことも書籍を購入することもできるが、自動車を買うことはできない。
ブロックチェーンによる送金は、国境をまたぐ場合などで大幅な手数料の低減を実現するなどの利点がある。用途のコントロールは、低い手数料とともにメリットの大きな特徴といえるかもしれない。
他にも、薬の服用履歴や、既往症、アレルギーなど医療に必要な情報を記載する“お薬手帳”のようなものをブロックチェーン技術で管理すれば、旅行中の急病やけがなどの際にも適切に医療が受けられるようになる、といった用途を例示。
「ブロックチェーンは安全、安心な経済社会を切り開くと期待できる」との考えを示した。また、現行の仮想通貨についても触れ、「まだまだ資産としての価値は低いが、今後5年で大きく変わるはずだ」と述べた。
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具体的な利活用に構想いろいろ
第三部では、アジアの会の馬場正信代表がモデレーターとなり、フィンテック企業であるアドバサの久保田俊輔代表取締役や小型家電リサイクルなどを手掛けるリネットジャパングループの黒田武志社長らを招いたグループセッションが行われた。
この中で、アドバサの久保田代表取締役は自社で展開する「給与相当額随時払いシステム」を紹介するとともに、「キャッシュレス化やグローバル化は今後ますます進展する。これに伴いコンピューターシステムの処理量は増大することになるが、どう対応するのかは大きな課題だ」と警鐘をならした。
一方、リネットジャパンの黒田社長は自社事業の説明のほかカンボジアでの展開に言及。
「カンボジアでは日本のような自動車の登録制度などが未整備だが、同国の死亡原因のトップが交通事故だという現状を考えると自動車関連のインフラ整備が必要となる。リネットでは、日本の仕組みとブロックチェーン技術を取り入れたカンボジア向けの管理インフラを構築し、同国に貢献したい」との考えを示した。
モデレーターを務めた馬場氏は、第一部で基調講演した野口悠紀雄氏の指摘に触れ「ブロックチェーンの登場でネットビジネスの大企業にとって有利な状況は変わる。企業規模の大小にかかわらず、デジタル時代の次世代ビジネスに挑戦していきたい」と述べ、セミナーを締めくくった。
一連のセミナーは、東京都中央区の会議室を会場に入場無料で開催され、総勢80人が講師の話に熱心に聞き入った。
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