【高論卓説】構造的課題の解決図る組織文化を 勤労統計の不適切調査問題、その本質は
突如出現した厚生労働省の毎月勤労統計の不適切調査問題。29日朝の報道によれば、総務省は56の基幹統計のうち23統計で作成に誤りがあったと発表したようだが、一体どこまで広がるのか。(青山社中筆頭代表・CEO、朝比奈一郎)
厚労省の毎月勤労統計の不適切調査に関しては、(1)なぜ2004年に東京都で全数調査から一部を抽出する形に変わったのか(総務省が統計の不連続性・不自然性を指摘するきっかけになったとされる)(2)今年3月になって中途半端な復元加工を施すようになった背景は何か(3)厚労相まで上げて組織全体として不正を把握した昨年12月20日以降も従来通りの公表を続けたのはどうしてか-など、本件が発生した背景についてのジャーナリスティックな方向に関心が向かいがちだ。今国会でも、恐らく、こういった点を中心に議論が進むのであろう。
ただ、かつて公務員をしていた立場からは、議論を矮小(わいしょう)化させず、本質的な問題に向き合ってほしいと思う。別の言葉で言えば、今回の事件を奇貨として、霞が関に横たわる構造的問題の解決につなげてほしい、というのが本音だ。より具体的には、人事・組織・業務に関わる抜本的改革につなげてほしい。
まず、人材問題についてだが、霞が関には圧倒的に統計の専門家が少ない。しかも、統計部局には、いわゆるメンタルヘルス上の問題を抱えた人を送り込む傾向がある。私自身は統計部局に行ったことはないが、統計部局のマネジメントをする立場にいたかつての同僚などはその苦労を異口同音に問題視している。最近では、私の古巣の経済産業省を中心に、一部業務を民間に外注するなどして、統計業務をこなすケースが増えているが、後述するように、各種統計は政策立案の基本情報として重視されるべきであり、専門家配属の拡充が不可欠だ。
また、上記の「中途半端な復元加工」問題や「問題把握後の公表」問題を見るに、無謬(びゅう)性(誤らない)を過度に重視する霞が関の組織文化の色濃い影響を感じる。人間が行う業務であるからして、誤りは避けられないのが常だ。むしろ、「誤ること」を前提として、問題を把握した場合には迅速にまず「謝り」、できるだけ根本からの修正を図る組織文化を構築することが肝要だ。
最後に、データやファクトを政策立案業務の基本に据えることを基本にしなければならない。政治家ならともかく、官僚の矜持(きょうじ)として、本来は、データを虚心坦懐(たんかい)に眺め、政策の修正や立案を図ることは業務遂行の基礎中の基礎であるべきだが、実態的には、雰囲気や勢いで政策の方向性が決まり、データは後から都合のいいものを付け足す、ということが少なくない。いわゆるEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)などの言葉がはやっているように、データやファクトを重視する機運が生まれては来ているが、まだまだだ。
今回の問題を厚労省の特定部署や、各省の統計部局に関する個別具体的な課題のえぐり出し、あるいは、統計に基づく各種保険などの過少支給問題などに矮小化させず、根本的・本質的な課題解決につなげていくことが大切だ。
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【プロフィル】朝比奈一郎
あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。
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