【クルマ三昧】ジャーマン3不在、閑散のデトロイトショー 自動車産業は衰退するのか?

 
GRスープラを発表するトヨタ自動車の豊田章男社長

 僕ら自動車業界の人間にとって、1月は多忙の時期だ。神社参りもそこそこに、怒涛の自動車ショー詣が始まるのだ。(レーシングドライバー/自動車評論家 木下隆之)

 米国ラスベガスで開催されるCES(電気通信見本市)は1月9日開幕だ。急ぎで帰国、1月11日からのTAS(東京オートサロン)に出演、その足でデトロイトに飛び、NAIAS(北米自動車ショー)を取材して回る。たった1週間で日米の3つのショー会場を巡るのだから、我ながら呆れるばかり。聖地巡礼、時差ボケに陥るまもない強行軍なのである。

 だが、そんなショー巡りによって、時代の流れを肌で感じることができるのは収穫だ。

 CESを和訳すると「電気通信見本市」となる。家電やITなど、4400社を超える電機関係の企業が出展する。

 ジャーマン3が不参加

 IT時代を象徴するように、今年はトヨタは、自動運転技術を搭載した「TRI-P4」を発表した。レクサスLSをベースに無数のカメラを組み込んだのが特徴で、迫る自動運転社会の急先鋒に名乗りを上げた。日産はインターネットに常時繋がる「コネクテッドカー」構想を発表した。EVの出展も少なくない。

 同様に、チューニングカーの祭典TASも大盛況である。CESとは対象的に、未来の技術を語るショーという意味合いは薄く、身近なカスタムカーやレーシングマシンの出展が基本だ。ガソリンやオイルの匂いを感じるのだ。

 前身は、「東京エキサイティングカーショー」である。かつては非合法ギリギリのチューニングマシンが主体であり、アウトローな雰囲気に溢れていた。だが、いまではれっきとした自動車文化として認められている。数年前からは自動車メーカーの出展もあり、東京モーターショーのお株を奪うほど正統派に成長しているのだ。

 その点、デトロイトのNAIASは寂しかった。米国御三家であるGM、フォード、クライスラーが本社を構えるデトロイトが会場だというのに、世界最大のショーとして誇った栄華も過去のこと。今年はついに、メルセデス、BMW、アウディのジャーマン3が顔を出さなかった。GRスープラを発表、LCコンバーチブル・コンセプトを登壇させるなどしたトヨタ・レクサス連合がショーに色を添えたが、世界的なサプライズはそれに留まった。

 デトロイトに来るのは最後かも?

 全米自動車ディーラーが主催だという事情もあり、FCA(フィアット・クライスラー・オートモーティブ)が6.4リッターの巨大なピックアップを発表、GMはキャデラック最大のSUVを公開、フォードは主力のエクスプローラーをお披露目した。というように、アメリカで売れる(あるいは売りたい)“いま”のモデルを中心に出展しており、近未来的な“さき”のクルマはCESに目を向けた。デトロイトにはガソリン垂れ流しの雰囲気が漂った。

 「わざわざデトロイトに来るのは最後かもね」

 関係者の口は寂しい。たしかにデトロイトの街には廃屋が目立つ。トランプ大統領が票田たるラストベルトに秋波を送るものの、GMリーマンショックの傷は癒えていない。時より銃声が響くほど街は荒れており、人影もまばらだ。諸行無常を突きつける。

 まるでCESとの勝負から逃げるように、これまで伝統的に1月に開催してきたNAIASは、2020年から6月開催に移るという。冬から夏にずらしたからといってもなんの解決策にはならないが、空撃ちでも撃てる策は撃つということなのだ。

 「来年は、ゆっくりと正月が過ごせそうだ」

 正月の強行軍も今年限りなのかもしれないと、誰もが寂しく感じていた。

 明白なクルマの二極化

 もっとも、デトロイトの将来には光明が見出せないものの、自動車産業が衰退したと解釈するのは時期尚早だろう。いわば米国車のローテク展示会に成り下がってしまった感のあるNAIASのお株を、ハイテク見本市のCESが奪ったと感じるのは自然だが、クルマそのものの魅力が薄れたわけではまったくない。チューニングカー全盛のTASはクルマ好きの琴線に響いているではないか…。

 ここで明らかなのは、クルマの二極化だ。ステアリングを握らない自動運転車が増える一方、運転する喜びの象徴であるチューニングカーは衰えていない。没個性の薄いモデルが淘汰されかけているだけで、クルマそのものが色褪せているとは思えないのだ。

 ハイテクに支えられた自動運転系のEVが勢いを増す一方、僕らクルマ好きに寄り添う走れるモデルもまだ衰える気配が全くない。いや、CESの隆盛に比例するように、走りのモデルがイキイキとしている。それを感じて大いに安心した正月だった。

 【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちらから。

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【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。