【社説で経済を読む】原発建設凍結、将来に禍根残さぬか
□産経新聞客員論説委員・五十嵐徹
日立製作所が、英国で進めてきた原子力発電所の新設計画を凍結すると発表した。事実上の断念とみていいだろう。
原発2基の事業費は、当初の2兆円から3兆円に増えた。風力や太陽光など再生可能エネルギーの普及による電力価格の急落、原発事業をリスクとみる投資マネーの動きも圧力になったという。そんな嘆きもプロジェクト関係者からは聞こえてくる。
日立の東原敏昭社長は1月17日の記者会見で、2019年3月期に3000億円の損失を計上すると明かした上、「コストを民間企業が全て負担するには限界がある」と述べた。日経の19日付社説が「日立の『やめる勇気』を見習いたい」と撤退を後押ししたのも、この辺が理由だろう。海外の原発事業をめぐる情勢判断の誤りが経営危機の引き金となった東芝の事例も念頭にあったのではないか。
矛盾した朝日の論理
同日付の社説で「政府や産業界が長年強調してきた原発の経済的優位性が根底から揺らいでいる」と容赦ない批判を浴びせたのは朝日。原発事業そのものの「行き詰まりが明白」とも述べ、「世界の潮流を見誤っていると言うほかない」と断じた。
インフラ輸出の柱として日本が海外で商談を進めてきた原発新設計画は確かに「総崩れの様相」(朝日)を呈している。
三菱重工業も事業費の高騰からトルコで進めてきた原発建設を断念する方向とされ、他にもリトアニア、ベトナムなどで計画が頓挫している。
傷口を広げる前に深入りを避ける道を選んだ判断は民間企業としては尊重せざるを得まい。東京電力福島第1原発事故の忌まわしい記憶はなお日本人だけでなく国際社会から消えていないのも事実だろう。
だからといって、直ちに日本は原発に背を向けることはできない。稼働中の原発の安全確保はもちろんだが、原発事故の処理以外でも老朽化に伴う廃炉原発が増えてこよう。使用済み核燃料などの問題もある。
なにより、このままわが国の原発事業を衰退させていいのか。日本の国益にとってどうあるべきか。中長期的な視点からの考察が必要だ。
産経は「わが国における原発技術の維持や専門人材の育成にとり、極めて深刻な事態と受け止めるべきだ」(1月21日付主張)と指摘。読売1月19日付社説も「活路を開くための輸出までストップすれば、これまで培った高い技術やノウハウが失われかねない。新たな人材も育つまい。ゆゆしき事態といえる」と警鐘を鳴らした。
脱原発を社是とする朝日は「世界の事業環境は一変した」と指摘し、再生可能エネルギーの本格的な普及を進めるべきだと力説するが、その再生エネにもコストのほか、電源として不安定であることなど問題点が少なくない。
その朝日も「本格的な原発廃炉の時代を迎える中、数十年にわたる作業を安全に進めるのに必要な技術基盤や人手を、どう確保するか。メーカーと電力各社は真剣に考えてほしい」と求めている。原発は不要だが技術者の育成は不可欠というのだろうが、矛盾してはいないか。
政府の原発政策の腰が定まらないことも問題だ。「国のエネルギー基本計画は、原発を『重要な基幹電源』と位置付けているが、建て替えや新増設には言及していない」(読売社説)からだ。
国の安保にも直結
エネルギー政策は国の安全保障にも直結する。とりわけ民間に責任を負わせるだけの原発政策はもう限界だ。
世界の原発市場では、国家の全面支援を受ける中国、ロシアのメーカーがコストを度外視して新興国に売り込みをかけている。このままでは原発事業で両国が世界を席巻するのは時間の問題だ。それは「国際的な核管理の観点からも望ましい姿とは言えない」(日経)。
経団連会長でもある日立の中西宏明会長は原発について「日本は本当に大丈夫か、長期を見通す議論が不足している。方向付けに対する議論をどの政治家もやらない」と苦言を呈している。
安全性の確保を大前提にメーカーや事業者がコストダウンを図るのは当然だが、政府も当事者意識を持って対応すべきだ。原発をエネルギー政策のなかでどう位置づけていくか。将来像が固まらないと、ビジネスとしての原発は存続できない。
米国などでは安価で安全性も高いとされる小型モジュール炉(SMR)など、従来の発想を離れた画期的な研究・開発も進む。
SMRは小出力の原子炉を複数組み合わせたもので、使用核燃料も少なくて済む。ポンプやモーターといった動力を使わないため、万が一の事故時も自然冷却が可能で安全性が高いという。複数の炉を必要な分だけ稼働させれば、火力発電並みの調整電源として使える。こうした技術競争に、日本企業も積極的に参戦すべきだ。
産経主張は「資源小国の日本にとって原発は再生可能エネルギーと並ぶ貴重な国産電源だ。しかし、政府が世論の反発を恐れて原発政策を曖昧にする限り、原発技術を次世代に引き継ぐことなどできない」とする。同感だ。
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